世界一周の旅で気づいた日本の課題とキャリアの目標|「信頼の貯金」が働くうえで重要となる

シードテック 代表取締役社長 高原 大輔さん

Daisuke Takahara・大学卒業後、大手人材派遣会社グループに就職し採用を担当。その後、複数の会社でマーケティング、事業再生を経験した後、2010年にIT人材事業を展開するギークスに入社し事業開発を手掛ける。2011年に世界一周に旅立ち、約1年後に帰国。2013年にギークスの支援を受け、フィリピンにNexSeed(ネクシード)を設立。2021年に日本でシードテックを設立し現職

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採用は究極の営業! 年間1,500人の採用担当職からキャリア始動

大学卒業後キャリアをスタートしたのは、大手人材派遣会社のグループ企業として福祉・介護事業を手掛ける会社でした

19歳で尊敬していた祖父を亡くし、その半年後には父まで亡くなってしまい、若く感性豊かな時期に相次いで肉親を看取った経験から、福祉・介護の重要性が心に刻み付けられ、また同時にお金を稼ぐことと、いずれは社長を目指すという若者らしい夢も抱いていたので、事業が急成長していた福祉・介護業界の大手企業グループをファーストキャリアとして選択しました。諸先輩方がベンチャーの急成長の波にのり、経済的に成功されている姿も魅力に映りました。

希望が叶って入社したその会社で、新入社員として福祉・介護の現場を経験した後に任された仕事が採用担当でした。福祉・介護の仕事は多くの人材が必要な業種で年間1,500名もの新卒採用を任されました。当時、おそらく日本で最も多くの採用人数を任された採用担当者だったのではないかと思います

営業職を希望していたため、採用担当を任された当初は残念な気持ちでしたが、それを変えてくれたのが上司の「採用は究極の営業だ」という言葉でした。

「形がなくてわかりにくい『会社』という商材を、相手に人生の『時間』という対価を支払って購入してもらう。つまり入社を決意してもらうのが採用の仕事であり、だからこそ究極の営業だ」というわけです。なるほどと納得しました。

採用の仕事を通じて社会や経済、ビジネスを学び、社会人としての自信を持つことができましたが、ほどなくして会社が売却されることになり、それをきっかけに退職しました。

学生のキャリア教育への思いから、転職を決意

その後はマーケットプレイスを運営するIT企業の営業や、企業の再生事業にかかわったりしていましたが、その頃に人を介して知り合うことになったのが、IT人材事業を展開するギークス代表取締役CEOの曽根原でした。

まだビジネスパーソンとして何者でもない社会人5・6年目の若手と、親しく言葉を交わし意見を交換してくださったのは、やはり器の大きさということなのでしょう。そこで意気投合したのが「日本に欠けているキャリア教育を整備すること」の重要性でした。

2000年代前半から中盤までの時代、学生たちはキャリア教育もなく、いきなり就活を始め、右も左も分からない中で星の数ほどある企業から大切なファーストキャリアを選択しなければならない状況でした。

何とか就職しても、企業や仕事とのアンマッチによって辛い思いをし、すぐに辞めてしまうような若者も多くいました。企業側にとっても無理な自社PRをして社員を迎え入れた結果、大量辞職という形でその歪みが出てしまうなど、採用を巡る問題は山積でした

そうならないためにも、もっと求職者と企業を効果的にマッチングできる仕組みキャリア教育があるべきで、大学や行政がやらないならば、それをやる民間企業があってもいいと思い、ギークスに入社して「就活塾」というキャリア育成をサポートする新規事業を手掛けました。

ターニングポイントとなった世界一周旅行。自分がチャレンジできる環境にいることを知った

しかし、1年ほどして、私のかつてからの夢である世界一周旅行に出たいと申し出ました。急な申し出にもかかわらず、気持ちよく送り出してくれた仲間に感謝しています。

恩ある仲間に不義理をしてまで出発した世界一周旅行でしたが、この経験が人生のターニングポイントに

人生の貴重な時間を費やすのに見合う、自分に対する最高の投資でした。世界一周の企画を旅行関連企業に持ち込み、スポンサーを獲得した体験も貴重なものでしたが、それ以上に世界を知ることができ、同時に日本を知ることにもつながったことが何よりの経験になりました

この旅を通じて、改めて日本に生まれた幸運に感謝する気持ちが強まりました。日本では望めば何でも手に入り、意思さえあれば何にだってチャレンジできる。失敗しても一定のセーフティーネットも整っている。

こんなに恵まれた国は他にありません。そう考えるともっとチャレンジすべきだと感じましたし、日本や世界のために頑張れることがあるはずだと思えるようになりました。東南アジアの成長を肌で感じられたことも財産です。

帰国後、旅をする中で課題に感じた日本のグローバル人材育成の分野でチャレンジを始めました

日本はIT化の流れに乗り遅れ、国際的に見て英語力も低いと感じたため、英語教育IT人材育成を図る事業で起業しようと考えました。また、世界一周旅行の際に東南アジアの成長を実感していたこともあり、フィリピンのセブ島にNexSeedを設立。

この起業の相談に乗ってもらったのも曽根原で、NexSeedはギークスの支援を受け、同社のグループ会社としてスタートしました。私にとっての大恩人であり、キャリア形成のうえで最も影響が大きい人物であることは間違いありません

それから8年後の2021年にシードテックを日本法人として設立しました。NexSeedで手掛けてきたIT人材育成のノウハウや、2020年から開始していたオフショア開発の強みを生かし、日本市場でのビジネス拡大を図るのが目的です。

2022年春には「ソダテク」というIT人材育成ができるSaaS型法人研修サービスもリリースしました。

近い将来、IT人材育成と言えば「ソダテク」、シードテックと言われる存在になりたい。そして日本に多くのIT人材が創出され、世界に対して日本のプレゼンスが高まる支援をしたいですし、今までお世話になってきたフィリピンでも多くのエンジニア育成の支援をしたいと考えています。まずは日本に拠点を設け、仲間を集め体制を強化しているところです。

「苦しい、辛いはやがて終わる」。仲間と一緒に乗り越えられない困難はない 

何か重要な決断をする際に、拠り所にしているポイントは「心底それをやりたいと感じているか」です。

会社を率いる立場で、自分が困難に直面した際に常にポジティブな感情を持つことができるか。最終的にはそれを重視しています。

また、ビジネスの場合は勝率も重要です。勝率5割に賭けるわけにはいきません。それではギャンブルになってしまいます。少なくとも6割、できれば7割8割以上の勝率が見込めなければ決断しません。勝ち筋の見立ては念入りにシミュレーションをして見極めます。

ボーリングでいうところのセンターピンを見極める人は出世が早いと思います。顧客の要望の「芯を食える」ことが重要なのです。

上司や同僚も、仕事を発注されて受けるという関係性においては顧客と同じです。つまり、その仕事で相手が何をもとめているかをきちんと把握すること。それによって仕事の無駄や効率の悪さを排除できます。顧客要望のセンターピンを見据えて仕事できる人ほど、キャリアのステップアップが早いのは確かです。

ビジネスを続けている中でいくつもの壁に突き当たってきましたが、その時には必ず「苦しみはやがて終わる」と考え、乗り越えてきました

人が懸命に頑張っても未来永劫に終わらないハードシングス、困難などはない」というのが私の考えです。それを前提に自分が全力で頑張っていれば、仲間も頑張って助けてくれます。

仕事も人生も困難は少なくないですし、瞬間的に「大変だ」と思うことは数多くありますが、この辛さや苦しさもやがて終わると思えばこそ、乗り越える気力も湧いてきます。

私たちがもとめている仲間は、平たく言えば「一緒に旅行できる相手」です。反りの合わない人と旅行するのは大変ですし、ストレスの原因になりますが、逆に言えばそれができる相手とは一緒に頑張れるということ。本当の仲間になれる相手です。

また、仲間にもとめる条件をもう一つ加えるならば、自分で考えて行動することができる人。自分を持っている人とも言い換えられます。言われたことをやるだけではなく自分で考え、自ら動く。それが大切だと常々考えています。

高原さんが考える「もとめられる人材」とは

  • 自分で考え、行動することができる人

  • 一緒に旅行できる人(=同じ目標を抱き、一緒に頑張ることができる人)

お金よりも、仲間からの「信頼の貯金」を貯めよう

私が自分のキャリアや人生を通して実感しているのが「信頼の貯金」の重要さです。お金を貯金することよりはるかに重要で価値があります。「あいつのためなら手助けしてあげよう」と考えてくれる人がたくさんいればいるほど、人生は豊かになりますし、ある意味で無敵です。

「信頼の貯金」を貯めるには言い訳せず目の前のことに取り組み、失敗してもいいから一生懸命、全力を尽くすことです。サボる人間は信頼を貯金することができません。約束や時間を守ることは言うまでもありませんね。

「信頼の貯金」を貯める方法

  • 失敗しても良いから全力を尽くす

  • 目の前の仕事をサボらない・逃げない

  • 約束を守る

企業選びで勧める3ステップ

企業選びに迷う学生の皆さんへアドバイスするなら、「3つのステップを大切にしよう」ということです。ステップ1は自分を知ること自分がどう生まれ、どう育ち、何が好きで何が嫌いか。会社とのマッチングで失敗しないためにも、もう一度よく見つめ直すことが大切です。

ステップ2は会社を知ることですどのような事業をおこなっている会社でビジョンや企業理念はどうか、財政状況はどうなのか。ステップ1と2を繰り返し考えながら自分に適した会社を探していきましょう。

とはいえ多くの企業があるので、消去法で選択していくのは有効的です。好きな仕事や会社を探すというより嫌いな仕事を消去していく。好きより嫌いの方が具体的にイメージしやすいからです。たとえば毎日店頭に立つのは苦手だとか、営業先を訪れてセールスするのは嫌だとか、消去法を使ってみるのです。

ステップ3は、会社側に選んでもらうための準備です。これがきっちりできている学生は少ないのが実態です。就活を始めてから切羽詰まって慌てて必死になる学生が多いのですが、これって全国大会の1週間前になって練習を始めるようなもの。大学1年生のうちから新しいことにチャレンジしたり、得意分野を伸ばすために時間を投資して自分磨きをしておけば、慌てることなく成果を上げられるでしょう

 取材・執筆:高岸洋行

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