社会人になる前と後では「幸福の尺度」が変わる|キャリアを賭けたいと思える夢や目標を見つける方法
GWC 代表取締役社長 / 一般社団法人スポーツコミュニティジャパン 代表理事 山野 勝行さん
Katsuyuki Yamano・大学卒業後、三菱UFJモルガンスタンレー証券入社。2004年より不動産インフォメディア、2010年より三井不動産リアルティで勤務。2012年に一般社団法人スポーツコミュニティジャパンを設立し、代表理事に就任(現職)。並行して2013年、Bリーグ所属のバスケットボールチーム「アースフレンズ東京Z」「アースフレンズBM」の運営を手がけるGWCを設立し、現職
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仕事を辞めたくなっても「自分の可能性」が見えるまでは続けてみよう
ファーストキャリアで金融業界に進むことを決めたのは、「ロジカルな世界に飛び込んでみたい」と思ったのが理由です。
1997年の山一證券の経営破綻を経て、当時は金融業界の改革を! と盛り上がっていた時期でした。体育会系の世界を生きてきた自分にとっては「理知的でカッコ良さそうだな」と憧れを感じたのです。
高校ではハンドボール部、大学では演劇やバックパッカーとして海外旅行に熱中する日々を過ごしていました。一時期は本気で役者を目指していましたが、大学3年生頃になると才能の限界も見えてきて「社会人になろう」と決意し、証券会社への入社を決めた、という経緯です。
しかし実際に入ってみると、そこは想像と違い、猛烈な体育会系の世界でした。朝早くに出社し、結果を出せなければ深夜まで帰れない厳しい環境でしたが、「この会社で一番になる」という思いがあったので、結果を出すまでは頑張ってみようと決めていました。「やると決めたら3年はやってみる」という自分なりの哲学を持っていたのも理由です。
この考えには、親の教育方針が大きく影響していますね。幼少期から何かをやりたいといえば、必ず賛成や応援をしてくれる家だったのですが、「でもすぐに辞めるのはダメだよ」と口酸っぱく言われていました。親なりに「すぐに辞めたらもったいないよ、何も身につかないよ」と伝えたかっただろうと今では思っています。
新人時代には、仕事を辞めたくなる瞬間が一度や二度あると思います。ただそこですぐに結論を出さず、いったん「どうやったら続けられるか」を考えてみてほしいです。
一種のたとえですが、地球上を掘り続ければ、大抵の場所から温泉は出ると言われています。しかし浅いところで掘るのを止めてしまえば、絶対に温泉は湧き出してきません。「自分の可能性」というのも、そのようなものだと私は思います。皆さんが持っている可能性は無限にあるので、自分の可能性を自分ですぐに否定してしまわないで、と伝えたいです。
「自分の可能性を見出す前に辞めてしまう子は多いよね、もったいないよね」という声は、経営者の友人たちからもよく聞かれます。人類の進化を考えても、若い世代の皆さんは自分たちより絶対に優秀だと思っていますが、それでも「1年程度では何も身に付いていないので、すぐに諦めないほうがいいよ」とは伝えたいですね。
転職をするにしても、まず3〜5年程度は働いてみて「ある程度これはやれたな、次どうしようかな」と考えられるようになってからのほうがベター。逃げや思いつきではない次の展望が見つかってから動いたほうが、次の会社でちゃんと期待してもらえる人材になれると思います。
社会人になって結果を出せば「幸福の尺度や価値観」は一変する
社会人になる前と後では「幸せの尺度」が大きく変わる、ということもこれから社会に出る方に伝えたいことのひとつです。
20歳くらいまでは、容姿やスタイルが良くて、家柄や学歴も優れていて、運動神経も良い………そんな人が、圧倒的に幸せ度数が高いと思います。私は演劇をやっていたこともあり、特にイケメンばかりに囲まれている環境でした。どうにか自分もモテようとロン毛にしてみたり、でもそれは完全に逆効果だったりで(笑)。楽しい学生生活ではありましたが、どこかで「いくら頑張っても越えられない壁がある」という挫折感があったように思います。
しかし社会人になると、その価値観が一変しました。「仕事ができる」という尺度が幸福度に大きく作用するようになったからです。
証券会社で頑張る決心をして以降は成績も出せるようになり、表彰や褒賞旅行も獲得。入社3年目には、出世ルートと言われる労働組合の役員にも抜擢されました。モテない男が諦めずに試行錯誤してくるなかで身に付けた「根性」が、仕事ではプラスに作用したのです(笑)。
周りの環境に影響を受けすぎない性格も、プラスに働いたように思います。「会社に嫌な上司がいるのは当たり前」くらいに思っているので、実際にいても気になりませんでした。「お客さんをどう喜ばせるか」ということだけに集中して一生懸命に取り組んでいたら、仕事がどんどん楽しくなっていった………という感覚です。大変な時期でも「仕事がつまらない」と思ったことは、一度もなかったように記憶しています。
高級住宅地のエリアを担当していたので、社会的に活躍されている富裕層の顧客ともたくさん出会うことができました。
「君もいつか『こうしたい』という夢ができてくる。想いは大事だが、それだけでは何もできない。そのときまでに『時間をコントロールする術』と『お金を得る手段』を身に付けておけよ」。この教えをいただいたことが、その後のキャリアを大きく左右しました。当時はピンときませんでしたが、複数の成功者たちがそういうのならそうなのだろう、と素直に心に留めていましたね。
そうしてキャリアにおける最初のターニングポイントがきたのは、入社4年目のことです。当時の私は「会社を変えるのは俺だから、次の社長は俺しかいないから」と吹聴して歩くほど調子に乗っており(笑)、そのような時期に、会社のトップの方と会食をする機会をいただいたのです。
その方は当時、日経新聞でコラムを担当されており、尊敬する方だったので、私はその席で「当社の未来はどうなるんでしょうか!」と熱い気持ちをぶつけました。すると「若いね〜私は10年、20年後に会社にはいないんだよ」という言葉が返ってきたのです。確かにそうだよなと思いましたが、なんとなくサラリーマンとしてキャリアを歩むことの限界が見えたように感じました。
そこから、成功者の顧客から教わった「お金を得る手段」について学んでみようと思うようになり、ITや不動産といった世界を見るために、関連会社に移ることにしました。
チャレンジしたい夢を見つけるには「予定調和」を避けることが重要
そうして20代後半になった頃、「35歳で好きなことにチャレンジするぞ!」という目標を決めたのが、キャリアにおける2つ目のターニングポイントです。年齢設定に大きな意味はありません。30歳だと近すぎて準備ができないし、40歳だと遅すぎるかなと思ったので、35歳までにやりたいことを見つけよう、と決めました。
現在の当社の事業領域である「バスケットボール」に興味を持ったのは、仕事で悩んでいた時期、知人の経営者に書籍をいただいたことがきっかけです。ミスターバスケットボールと呼ばれた伝説の選手・佐古賢一さんの物語で、感銘を受けて試合を観に行くようになり、バスケットボールの面白さにハマっていきました。その結果、「自分の手でプロチームを作り、世界に活躍する選手を育てたい」という具体的な夢が見つかったのです。
人生を賭けたいとも思える夢に出会えたのは、「予定調和の生活をしていなかったこと」が理由だと思います。
24時間の時間だけは誰にも平等だと思っているので、私は普段から常に忙しく動き回っています。そうして自分の足であちこち動き回っていると、いろいろなものに出会うことができます。
答えのわかっているものに向かって効率的に動いているわけではないので、無駄や失敗もたくさんあります。人生で見れば、1勝50敗くらいかもしれません。それでも「1」に出会えたかどうかが、人生を左右する。正解ばかりをもとめず、人の評判も気にせず、自分の直感や感性を信じて動き回ったからこそ、夢に出会えた……という実感がありますね。
今の時代は、夢を見つけにくいだろうなとは思います。なんでも検索すれば的確な答えが出てきて、無駄やストレスの大半を排除できるからです。
口コミを見れば、まずいお店に出くわすことはほぼないし、自分の好きな人や好きなモノだけにかかわることができる。確実に幸せにはなっていると思うのですが、一方で予定調和の人生になってしまい、「心にグッとくるような出会い」を得られる機会は少なくなってしまっているように思います。
私自身はキャリアの要所要所で良い出会いに恵まれてきた自覚があり、友人知人からも「引きが強い」と言われます。出会いは、いろいろなアクションの中で生まれてくるので、皆さんもインパクトのある出会いをしたいと思ったら、効率など考えずにとにかく行動してみるのが最善だと思います。
無論、これしか方法がないとは思っていません。能力の高い方は「効率を追求しつつ出会う」ということもできるのかもしれませんが、「私はこのやり方で出会えたよ」という一例として、良ければ参考にしてみてください。
夢を見つけてオーナー社長になってからは、日々驚きと発見の連続で、毎日がターニングポイントという感覚です。
BリーグとJHLという国のトップリーグに所属するチームを2つも抱えていますし、地域も巻き込んでいる責任もあり、成績を出せなければ、いろいろと言われる立場でもあります。社員に「ちゃんとやろうよ」という立場になったことで、自分を律しなければならないしんどさもあります。
大変ですが、それでも予定調和をひっくり返せることもあるスポーツの醍醐味には敵いません。お金のあるビッグチームだけが勝つわけではないし、うちみたいなチームが勝つからこそおもしろい! と思っています。不遇な学生時代、結果を残していろいろな気づきを得られた大企業時代、そして起業をしての今……とキャリアを重ねるなかで、以前にも増して「予定調和ではないこと」に充実感を得るようになりました。
今後も「逆転を起こすぞ!」という当社の思いに共感してくれるメンバーが増えていけば、どんどんおもしろくなっていくだろうなと思えています。
コロコロ変わる「人の評価」に振り回されずチャレンジを続けよう
就職活動においては、「反省する必要は一切ない」と私は思います。人の相性は変えられないので、面接で落とされたならば、単にその会社の人や面接担当者との相性が悪かっただけ。「ひきずっても次の一手が遅くなるだけで、良いことはない」と考えて、その日のうちに忘れてOKです。
「それでは何も改善しない」と思う人もいるかもしれませんが、同じような失敗をいつまでも、何度でも繰り返すのが人間の性分です。2022年にもなって戦争が起きたことでもわかるように、人は完璧とはほど遠い、バグだらけの生き物です。
面接がうまくいかなければ「クソ会社だな」とディスりたくなるかもしれませんし、それも絶対にNGではないと思います。良いとは思いませんが(笑)
さりながら「誰も聞いていなくても神様は見ている」と思っていたほうが、人生はうまくいきやすいとは思います。人間は完璧ではないからこそ、なんとか意識を正して感情をコントロールしよう……と努力している人のほうが、いざというときに神様が助けてくれ、運が向いてくる気がします。
仕事に限らずですが、自分の頑張りを「誰かに見てもらおう」と思って動いていてもそうそう思いどおりにはならないし、面倒が増えるだけ。評価は神様に任せて、自分がやるべきことを粛々と積み重ねていこう、くらいの心持ちが最善ではないかなと私は思います。
……なんて大口を叩いていますが(笑)、私自身、若い頃はまったく模範的な人間ではありませんでした。飲み歩いて朝起きられず、会社をサボったこともあります。ただ「サボってもいいけど、神様は見ているよ」ということだけは、自分に問いかけてきました。ネガティブなことがあったときは、「神様にイタズラをされた。成長しろと言われているな」と考えるようにしています。
就職活動は人に認めてもらうためではなく、自分のやりたいことやキャリアビジョンに向かってやるものです。結果が出るまでのプロセスで他人に何を言われても、気にする必要はありません。「10社も落ちたの?」なんて言われても、11社目に良い会社に受かれば、手のひら返しで賞賛や嫉妬をしてくるのが人の常。人間が下す評価なんてそのくらい不確かなもの、と思っておいてください。
入社してからも同様に「人の評価に振り回される必要はない」「結果が出ていないうちは、いろいろ言われても仕方ない」と割り切って、自分の目標はやりたいことに向かって継続的にチャレンジをし続けたほうが、幸せなキャリアが拓けていくと思います。
最初から、自分が思い描いたようなスタートが切れなかったとしても大丈夫。35歳でやりたいことを見つけた私の経験からも、どんどん動いて挑戦をやめないでいれば、最後には描いた場所につながっているから……と伝えたいですね。
企業選びは二択に分かれる。「公私のどちらに刺激をもとめるか」を考えてみよう
これからの時代、学生さんの企業選びの方向性は極端に2択に分かれていくだろうと予想しています。
ひとつは、とにかくストレスフリーな働き方をもとめる選択肢です。こちらを選ぶ人は、とにかくメガ志向になるのがベストだと思います。できるだけ大きな会社への就職を目指し、落ちても、できるだけ大きなグループの子会社を目指すことを考えてみるといいと思います。
ただしこちらの場合、「先人たちがすでに作ってくれた仕組みのなかで、感謝しながら働く」という姿勢は持っておく必要があります。リスクを落としているからこそホワイト企業にできているわけで、ホワイトな環境のなかにいることを忘れて、仕事に刺激や憧れをもとめ始めると、おかしなことになってきます。こちらを選ぶ人は「刺激はプライベートでもとめよう!」と決めておくのがおすすめです。
もうひとつは価値観重視で、自分のやりたいことに挑戦する選択肢です。こちらを望む人は、中小企業やベンチャーに行くのがおもしろいと思います。会社の制度も仕組みも不完全ですが、だからこそ、自分たちの手でたくさんの挑戦ができます。
仕事で困っていることを打破する方法は検索サイトにも載っていませんし、正解を自分で見つけていけるので、仕事に刺激をもとめる人にはかなり楽しいと思います。
うちもそうですが、後者(中小企業やベンチャー企業)は「人の成長」で勝負しています。社員たちの成長によって課題を解決し、社員一人ひとりが仕組みを作れる力を持った人材に成長していくことによって、会社を成長させていくことを目指します。
一方で、前者(大企業)は仕組みがしっかり回っているからこそ、誰かが辞めても大丈夫な体制になっています。仕組みで勝負するのが大企業、人の成長で勝負するのが中小企業、という捉え方をしてみるのもおすすめです。
就職活動を始める際には、「どちらが自分のもとめる世界なのか?」をはっきりさせてから、業種や会社を決めていくのは一案です。
もちろん、いったん入ってみて「これはもとめる世界と違う」と自分の価値観を確信してから、逆サイドの企業に移るのもありだと思います。
取材・執筆:外山ゆひら