簡単なことにも「壁」を見出せる人ほど成長できる| 自分の仕事をより魅力的にしよう
テモナ 取締役兼執行役員COO 本多 渉さん
Wataru Honda・学生時代から音楽イベンターとして仕事をし、27歳でワークスアプリケーションズへ入社。2018年9月にテモナに入社後、執行役員エンタープライズソリューショングループグループ長に就任。2020年10月に執行役員サブスクストア事業本部本部長、同12月には執行役員COOサブスクストア事業本部本部長に就任。2021年、取締役に就任し現職
キャリアの選択は「心持ち次第」でいくらでも正解にできる
27歳のとき、完全未経験でIT業界に飛び込んだことが、私のキャリアにおける最初のターニングポイントです。
今でこそ未経験者を歓迎しているIT企業はたくさんありますが、当時は経験者を募集している企業が大半で、優秀なエンジニアは大手の外資系企業に就職するのが一般的でした。そのなかで、私が飛び込んだワークスアプリケーションズは「IT業界に未来を見ている未経験者を教育します! 」という珍しい方針を打ち出している会社でした。
もちろん「未経験者ならば誰でも」というわけではなく、面接の倍率は相応に高かったです。特待生という特別感のあるネーミングで入社させてくれるものの、半年後には「モノになるかどうか」を判断されて首を切られる可能性もある、それなりに厳しい条件でした。
とはいえPCもほとんど触ったことのない状態の人間を雇ってくれ、半年間まともな仕事もできないのに給料を出してくれることにはありがたさを感じていましたし、27歳までそれなりに責任を持ってやってきた自負もあったので、必死で頑張りました 。
同期にも大手企業を辞めてきた人や第二新卒者など、「ここからやり直すぞ! 」という意気込みに燃えていた人が多かったです。そうしたエッジの効いた人間を、会社ももとめていたのだろうと思います。
私がIT業界に飛び込んだ当初の理由は、実はプライベートの出来事が主な原因で、「IT業界に将来性を見出したから」ではありませんでした(笑)。ただ、入ってから高いプロ意識と責任感を持ち、かつ「自分で考える」ことにこだわって仕事をするなかで、キャリアが拓けていきました。
この経験から就職活動についてアドバイスをするとすれば、「仕事はとにかく入ってから次第」だということです。その観点で言えば、入社して頑張れるならば極論、どんな業界や企業を選んでもOKだと思います。
ただ、本気で頑張るためにはモチベーションも必要なので、「自分がなぜその会社を選んだか」を明確に言える会社を選ぶのがベストではないかと思います。学生の皆様には、その会社を選ぶ理由を自分の中で突き詰めることをお勧めしたいです。
斜陽産業(需要が傾向的に減少している産業)と言われている業界だとしても、「自分はこの世界が好きだから、自分が入ることで何かを変えるんだ! 」という気持ちで飛び込めば、業界を生き永らえさせるために何かしら貢献できるかもしれません。本人の心持ち次第で、キャリアの選択はいかようにも「正解」にできる、ということです。
深く考えるほど仕事は面白くできる。「壁を見つけてクリアする習慣」を身に付けよう
実力が認められ、半年後の選抜をクリア、3年ほどで主力製品のゼネラルマネージャーに昇格しました。逃げ出したいくらいのしんどい局面は何度かありましたが、「信頼する経営者を裏切りたくない」という気持ちも強かったですし、何より「ここでやってやるんだ」という覚悟が決まっていたことで乗り切れたように思います。
またこの時期には、「どれだけ深く物事を考えながら仕事ができるか」という部分を磨きに磨けた自覚があります。
物事を深く考えていると、人がスルーするような部分でも立ち止まって「壁(課題)」が見えてきます。小さな事象のなかにも何らかの解決すべき課題を見つけ、それをクリアしていく習慣を付けておくと、いずれ本当に大きな難題にぶつかったときにその経験値が後押ししてくれるよ、ということは、経験から皆さんにアドバイスできることです。
社会に出ると、大抵は簡単な仕事から任されるはずです。つまらないと思うかもしれませんが、与えられた仕事を軽んじず「どこかに課題(壁)はないか」という視点を持って取り組んでいくと、壁はいくらでも高くすることができます。
自分の頭で考えて真剣に取り組んでいると、その仕事をどんどん面白く、魅力的にしていくことができます。一つひとつの仕事に全力で向き合い、考えながらやっている人と、適当にやっている人では「仕事の面白さや魅力」も大きく違って感じられる、ということです。その努力をしないまま「あっちの仕事のほうが華やかそうだから、良さそうだから」と転職を繰り返していても、実りは少ないと思います。
まずは縁あって入った会社で、自分の頭で考えながら最低限やるべき仕事をやってみて、仕事の面白さや成長の実感を得てから次のステップに進む……というのがベストではないでしょうか。その段階に至るには、早くても1年はかかることでしょう。
壁を越えすぎると、そのうち「どんな壁でも楽勝で越えられる」と過信してしまう弊害も出てくるので、中堅やベテランになると、今度は「その経験値をいかにゼロに戻せるか」「自分の中のアーカイブをいかに捨てられるか」が重要になってきますが、それはまだ先の話。新人時代はまず「仕事のなかに壁を見つけ出し、自分でその壁を高くしていく」という意識で取り組んでみるのがおすすめです。
全力で仕事をしていると「次のキャリア」は向こうからやってくる
全力で立ち回っていると周囲に同志ができて、思いも寄らないところから「次のキャリア」が縁で生まれてくることもあるよ、ということも、経験から伝えられるアドバイスです。「自分でこうすると決めて、それどおりに進むだけがキャリア設計ではない」ということは知っておくといいと思います。
私自身がそれを感じたのは、30歳半ばのこと。独立も視野に入れて次のキャリアを考え始めていた頃、社内から「別会社の立ち上げを任せたい」という話をいただきました。
未経験の領域でしたが、現在のeコマース(EC)につながるような新規事業の立ち上げを経験できたという点で、2つ目のターニングポイントと言えるかと思います。製品づくりのための組織だったので、3年後には本社に吸収されることになり、一定の成果を残せた達成感をもって私自身も本社に戻ってきました。
入社した当時のワークスアプリケーションズはまだ上場前で、100名くらいの組織でしたが、現在は6,000人という規模になっています。企業の成長とリンクしながら自分も成長させてもらうなかで、実に17年間を過ごしました。
ベンチャー精神を持ち続けている会社だったので、会社が大きくなる過程ではいろいろと苦労もありましたが、キリのいいタイミングがあったので、トップと相談し、2018年に退職することを決意しました。
ビジネスモデルに注目し「若手に挑戦させてくれるベンチャー」を見極めよ
転職先として現在の会社であるテモナを選んだのは、「世界を目指せる可能性があるビジネスをしているな」と事業内容に将来性を感じたことが理由です。
日本発でグローバルスタンダードになっているものは、漫画かゲームくらいしかありませんが、私は前社にいた頃から「日本発の業務ソフトウェアで世界に行きたい」という目標を持っていました。そして、テモナには「もしかしたらここなら」と思える何かがありました。
社長は私よりも年下ですが、「サブスクリプションのビジネスモデルで世の中を救いたい、世の中を変えたい」と、事業に対して強いパッションを持っています。この領域に目を向け「絶対にやる」と決めてコミットしているところも心から尊敬していますし、日本初の取り組みもたくさんやっているので、転職後は私自身も大いに勉強させてもらっています。
ベンチャー企業ながら、安定収益を得られるストックビジネスをやっている点も、大きな強みだと感じています。
現在、テモナはサブスクストアをはじめとするサブスクに特化したシステムでシェアNo.1の企業に成長していますが、今後はサブスク総合支援企業として、多くの新規サービスや仕組みづくりにチャレンジしています。
安定収益を得られる会社ということは、つまり「若手がチャレンジできる会社」ということでもあります。若手がやりたい新規プロジェクトに赤字を出すリスクがあっても、他で収益基盤があれば「チャレンジしていいよ」と言ってあげられます。収益基盤がない会社の場合、失敗したら会社が傾いてしまうので、若手に大きなチャレンジをさせてあげることが現実的に難しいです。
就職活動でも「失敗を許容できる財務構造がある会社かどうか」「若手がチャレンジできるビジネスモデルになっているかどうか」というポイントには注目してみるといいと思いますね。あえてリスクの高いところに飛び込む選択肢もありだとは思いますが、ベンチャー企業とひと口に言ってもいろいろな会社がある、ということは知っておいてください。
幅広い経験ができる+能動性が身に付く点で「1社目にベンチャー」はアリ
これまでもこれからも活躍するだろうと思う人材像は、「組織のなかで、個人としていかにプロ意識を持って動くか」を追求し、会社と社員の関係性を対等にしていける人です。こういった人はどこへ行っても需要が高いので、「大企業かベンチャーか」という選択肢も関係ない気がします。
これから上記のような人材になるための方法のひとつとして、「1社目でベンチャーに行ってみる」というキャリアプランはアリだと思います。
大企業は組織体制がしっかりしている分、「決められた役割でどうやるか」ということになり、役割をはみ出して仕事をすることがなかなか難しいです。指揮系統もしっかりしているので「指示された業務をやる」時間も長いと思います。
その点、ベンチャーは良い意味で枠組みがないので、やろうと思えば、いくらでも幅広い領域の仕事を経験できます。分母が少ない分、一人ひとりの活躍が肝になり、若手も自分で考えて仕事をする習慣が身に付きやすいです。「いくつ壁を越えられるか」で成長度合いは決まるので、裁量を任せてもらえる環境のほうが成長は促されるはずです。
「最初に大企業に入ってから、ベンチャーに転職する」という選択肢のほうが簡単そうに見えるかもしれませんが、「前職で何をやったか」をしっかり語ることができ、かつ仕事力が身に付いていれば「ベンチャーから大手に入る」というキャリアパスもそう難しくはありません。
このあたりは社会に出てみないと実感できない部分だとは思いますが、「1社目で大企業とベンチャーのどちらを選ぶべきか」で迷う際は、ひとつの意見として参考にしてみてください。
キャリアを重ねるなかで「利他的な目線」や「次世代への想い」が芽生えてきた
私自身のキャリアにおける充実感は、年々変化してきています。20代の頃は「いかに自分が難しい仕事を乗り越えられるか」という部分に一番の充実感を覚えていましたが、30代になると「仕事で関わる人に何を残せるのだろう? 」「自分が相手に対して何を出してあげられるか」という視点が芽生えてきました。
どこかのタイミングで「自分の利益をもとめる」ではなく「利益を与える」というスタンスになろう、と明確に決意した瞬間もありましたね。テモナの行動指針でも「利他的に行動する」という一文が含まれていますが、これはキャリアをひとつ上の段階にあげるための重要な視点かなと思います。
そして最近は、若い人たちに「考えることで、どれだけキャリアを切り開けるかを伝えたい」という気持ちが強くなっています。
私は前職でインターンシップ運営に参加するなかで、採用にも興味を持ち、今も新卒のメンバーたちと関わる機会が多い仕事をしています。若い人のアイデアに基づいてチャレンジしたことで仮に結果が出なかったとしても、「自分には思い付かないようなことを考えているな」と感心させられることは、とても多いです。次世代の人たちの斬新な考え方に触れられることに非常にワクワクしています。
だからこそ、採用の場面でも素の自分を見せてほしいな、とよく思いますね。最低限のマナーは必要ですが、練習した面接トークを喋っている人より、短所につながりかねない部分も隠さず正直に見せてくれ、「なるほど、そうやって考えてここにいるのだな」と思わせてくれる人のほうが魅力的に映ります。
企業の人事担当者は何百人・何千人と学生さんを見てきているので、「一時的に取りつくろっても、どうせバレる」くらいに考えておいてもいいかもしれません。そのほうが、肩の力を抜いて自分らしく臨めるのではないでしょうか。採用面接は、お互いのマッチングを見るための場なので、思いきって自分の個性や考えをさらけ出したほうが、自分に合った企業が見つかりやすくなると思います。
取材・執筆:外山ゆひら