個性や能力が活きる環境が絶対にある|好きなことを磨いて新たな価値観を構築しよう
マイホム 代表取締役社長 乃村 一政さん
Nomura Kazumasa・高校卒業後、NSC吉本総合演芸学院を卒業し、お笑い芸人として舞台に立つ。住宅メーカーでの営業を経て、2010年SOUSEI(ソウセイ)を設立。住宅ビルダー事業で、2年で地域トップに成長。IoT企業2社創業。2014年、マイホムの前身サービスを開発開始し、2017年からβ版を全国へリリース。2021年2月より上場を目指し前澤ファンドとともに株式会社マイホムを創業
お笑い芸人を目指した20代! 死ぬときに後悔しない選択を
経営者になるまでは紆余曲折の人生を歩んできました。
高校卒業後はNSC吉本総合演芸学院を経て、お笑い芸人をしていたんですよ。決して裕福ではない中で育ったのですが、お笑いは誰でも楽しめる娯楽だと感じ、24歳まで夢の舞台に立っていました。
しかし自分の才能に見切りをつけ、25歳で漫才を辞めました。その後、会社員として営業の仕事をしながら、30歳になった時、もっと大きいことがしたいと考えるようになり住宅業界に飛び込みました。営業成績でトップを取ったりしていましたが、満足できませんでしたね。とにかく必死で、先のキャリアを切り開いていきたかったんです。
2010年33歳でSOUSEI(ソウセイ)を設立。奈良県でITに特化して工務店業を始めました。地域のお客様の信頼を経て2年ほどで地域トップクラスの業績を納めるほどに成長できました。
とにかく20〜30代にかけては、死ぬときに後悔したくないという思いが強かったです。若いうちは世の中のことは、わからないことばかりです。まずは全力で自分の力を捧げて目の前の仕事にぶつかってほしいです。
死ぬ時のことを考えるのは大袈裟かもしれませんが、「生きているうちにやっておけばよかった」と思わない生き方というのは、目指すべきある種の真理だと思います。
唯一無二のアイデアで社会を前進させたい
2010年代に入るとスマホの普及に伴いインターネットは世間の常識となり、IoT(Internet of Things)という考え方も生まれつつありました。
さまざまなものがインターネットにつながるのならば、住宅だって連携できるはずだろうと考えるようになったんです。OSをアップデートし、必要なソフトをインストールするように、家を柔軟に変化させながら、住み良い空間を提供したいと考えました。そのための頭脳デバイスを開発することにしました。
構想を具体化するために渡米、シリコンバレーのnest(ネスト)を訪問したこともあります。また、当時Apple(アップル)の上級副社長を退任しnest社を立ち上げたTony Fadell氏とアイデアをシェアしたことも思い出です。
ここでの構想が好評を得て、海外の展示会のシンポジウムに登壇することもありましたが、国からの補助金がなくなったことで事業が難しくなってしまいました。
それでもめげず、次に注力したのは、家を作るときに一気通貫で使えるアプリの開発です。
長いこと住宅業界にいたのに、恥ずかしながら家を建てるまでの大変さを理解していませんでした。自分が自宅を建てることになって初めて、その情報や書類管理の煩雑さ、面倒さに気づきました。
世の中のさまざまなことがネット上で完結できる時代にあって、住宅建設は全て紙で管理されていることに強いフラストレーションを感じ、この素朴な消費者心理から生まれたのがマイホームアプリ「マイホム」の元となるサービスでした。
30代から40代へと年齢を重ねていく中で自分を突き動かしていたのは、「自分の思い描くサービスで世の中を少しでも前進させたい」という思いです。
自分の満足だけでなく、社会を少しでもよくできたらという気持ちが、事業を進める原動力になりました。もちろん自分はITの専門家でもなく、住宅ビジネスを経験してきただけですから、情報産業のプロフェッショナルには叶わないと自覚しています。途中参加だからこそ、夢中で頑張れている気もします。
世の中へのインパクト。そして年齢や経験を重ねても夢中になれる要素。これがキャリアの充実を支える基盤になっていますね。
これから社会に巣立つみなさんは、不安や戸惑い、期待の混じった気持ちで、就職活動をすすめているのかもしれません。自分にはなんだってできるという自信に満ちあふれている人は少ないのかな。
22歳は若いからなんだってできるというのは、一面では正解で、別の面では間違っていると思います。私は、22歳は十分大人だと思うんですよね。
幼少期からの環境、思春期を経て青年期での経験で、少なくとも人格形成は終わっていると考えます。好き嫌い、向き不向き、得手不得手のベースはもう揺らがないと思うんです。だとしたら、好きなこと、向いてること、得意なことをとことん伸ばした方が良いと思いませんか。
自分には得意なことなんてない、と思っている人は、自分の行動を少し振り返ってください。
なぜか人より少し上手にできることや、みんなが嫌がるけど自分は苦痛じゃないこと、長くやっていても飽きずに続けられることなら、誰でもなにか1つぐらいは思い当たるのではないでしょうか。飛び抜けて素晴らしい才能なんて、誰しもが持ち合わせているものではありません。
好きだから続けられる、嫌いじゃないからしっかりやれる、やっていく中で喜びややりがい、楽しみを感じられるようになる。これがキャリアの王道だと思います。
キャリアの基盤となる得意なこととは
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人よりも少し上手にできること
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みんなが嫌がるけど自分は嫌ではないけど
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長く飽きずに続けられること
上手くいかなくても、損をしてもやりたいことに挑戦しよう
キャリアの途中では必ず、上手くいかないことが出てきます。むしろ、世の中のほとんどは、思い通りにいかないと知るのが仕事、なんだと思います。それでも好きなら試行錯誤できるし、嫌いでなければ続けるうちに上手くなり、問題を解決できるかもしれない。多少上手くいかない前提でも、やっていけそうなことを仕事にすると良いと思います。
仕事の世界には回答がないので、学生時代では考えられないような失敗をするかもしれません。取り組む前より、状況が悪くなってしまうことすらあるんです。そんな嫌になってしまう場面でも、上手くやる人はうまく切り抜けるんですよ。そんな時こそ、なぜ自分は失敗し、相手は成功したのかしっかり分析すると良いでしょう。
属人的な要素を取っ払って、仕事を構造として見直してみると、自分にも生かせる点が見えるかもしれません。
自分も経営者として数えきれないくらい失敗してきました。成功していることに焦点が当たりますが、1つの成功の裏には9つの失敗があります。いちいちへこたれていたら前へ進めません。
今成功していることは、成功するまでやったから成功したんだと思います。アイディアを思いつく人は100人、実際やって見るのは10人、失敗しても諦めない人は3人、そう考えています。だから本当のライバルは2人ぐらいだと。粘り強く、なんとか成功へとねじ伏せる。そこに経営者の資質が問われます。
結局、好きなこと、どうしてもやりたかったことじゃないと粘れないということなんです。
経営者は立派な人、賢い人、有能な人と思われがちですが、私はその逆ではないかと思っています。何かに秀でているのではなく、実は何かが大きく欠落している人なんじゃないかと。(笑)危険を危険だと認識できない人が、無謀にも新しいビジネスにこぎ出しているだけではないか、と思うこともあります(笑)
鶏口となるも牛後となるなかれ! 自分の裁量のある環境を選ぼう
自分は小さいチームの中で先を走っていきたいと思い、結局経営者になりました。好奇心の赴くまま、行動力に任せて走ってきたと思います。
「鶏口となるも牛後となるなかれ」の精神で、自分の裁量で動ける環境の方が、楽しいんじゃないかな。
たとえば小さなスタートアップにジョインするのであれば、代表の考えがダイレクトに反映されます。だから代表と価値観が近いかは確認した方が良いでしょう。
一方で大企業の場合は、代表者のカラーというよりは、企業の風土、カルチャーの方が重要でしょう。カルチャーフィットがあるか、少し考えてから入社しても良いのではと私は考えます。
現在はSNSでどんな人でも探し出せますし、簡単にオンラインでつながることができる時代です。「話を聞かせてください」とその会社の方にメッセージを送って企業の実態やカラーをヒアリングしてみれば良いと思います。
もちろん礼儀は必要ですし、知らない人と無闇につながるのは危険もありますが、多くの社会人は後輩をサポートしたいと思っているはずです。テキストだけでも交流できる時代、モノは使いようですよね。
乃村さんが考える会社の選び方
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会社のカルチャー・企業風土に注目する
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SNSなどで会社の情報を集める
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面談などで社長または社員と話し合う
誰のためのサービスなのか? 徹底したエンドユーザー目線で粘り強く
2021年には当社のサービスが前澤ファンドに選出されました。ZOZO前社長の前澤友作さんと事業について話し合う中で、共感し、感銘を受ける部分も多いです。
選出前には、前澤さんから直々に何度も面接を受けました。さらに現在も毎月細かな部分までしっかりとミーティングしています。前澤さんは感覚重視の右脳派の経営者という印象を持つ人も多いかもしれませんが、非常にロジカルかつ細部まで目を配ってくださる経営者です。
そして、徹底的なエンドユーザー目線を常に持ち続けています。実際のサービスが最終的に届く、エンドユーザーの幸せを追求する姿勢から、学ぶことも多いです。ついつい業界内の常識や関係者を見据えて小賢しいビジネスになってしまうことがありますが、本質はそこにはないと思い知らされます。
一体なんのための仕事なのか、どこを向いたサービスなのか、目的はどこにあるのか、エンドユーザーはハッピーになるのかをいつも胸に置いて仕事に向かいたいですね。
変化の激しい時代だからこそ、個人の個性・能力が生かされる仕事が次々に生まれてくる
変化の激しい時代の中で、もとめられる力はなんなのか考えてみましたが、そのようなものはないと思います。
業界業種はもっと細分化されていくでしょうから、それら全てに必要とされるユニバーサルなスキルはないと言って良いでしょう。これを逆手にとって考えれば、どんな能力でも必要とされる場所が必ずあるということでもあります。
あなたの個性や能力が生きる業界や会社、場面は絶対にあります。多様性が重要視される社会で、あなたが輝ける場所がどこかにあるはずです。
就職ももっと流動的で多様なものになっていくと予想します。新卒の一括採用が一切なくなるとは思いませんが、人生における重要度は下がってくるのではないでしょうか。
学校を卒業するタイミングで皆が社会に出るのではなく、さまざまなルートや時期に社会に出られるような時代になっていくと思いますよ。
もっと言えば、今ある仕事がこれからもずっとあるわけではないと思っています。現在小学生の子どもたちが大人になった時、6割の人が小学生の時にはなかった仕事に就くというデータもあります。
つまり言い換えれば、これから生まれてくる仕事がたくさんあるということです。そうなったら未来の予想なんてできないし、する必要もないと思いませんか。
今、就職活動をおこなう中で追い詰められる必要はありません。時代の中で必要とされる力を磨き、自分を生かせる場所へ赴き、新しい仕事を生み出していけば良いんです。
取材・執筆:鈴木満優子