モノづくりと経営の共通項は「手触り感」|小さな挑戦から人との縁を広げていこう

HACARUS(ハカルス) 代表取締役COO 染田 貴志さん

HACARUS(ハカルス) 代表取締役COO 染田 貴志さん

Takashi Someda・京都大学大学院の情報学研究科を卒業後、サン・マイクロシステムズに入社。セールスエンジニアの経験を積んだ後、未踏ソフトウェア創造事業にてソフトウェア開発に従事。その後、共同創業者として起業の経験を経て、福岡のベンチャー企業の京都拠点を立ち上げ、サービス開発やマーケティングなどに携わる。2016年にHACARUSに入社し、取締役CTO、CBOを経て、2023年4月より現職

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「モノづくりのエンジニア」を目指してベンチャー企業へ

学生の頃からインターネットに興味があり、コンピューターを活用した仕事をしたいなとぼんやりと考えていました。

Microsoft Windows 95が発売されるなど、インターネットが広まりだした頃、私は高校生でした。家庭にもコンピューターが普及しはじめていたので、そんな時流にも影響され、京都大学の情報系の学科に進学。そして、エンジニアとして働いてみたいという気持ちで、大学院卒業後、サン・マイクロシステムズというIT企業に入社しました。

入社の決め手は「The network is the computer(ネットワークこそがコンピュータである)」というスローガンおよびミッションに惹かれたこと。そして、英語を使うグローバルな仕事であったことです。

入社後は、セールスエンジニアに配属。同社は大企業でしたが、アメリカのシリコンバレー発ということもあり、まるでベンチャー企業のように自由に仕事をさせてもらいました。決まり切ったことは少なく、新卒から裁量をもって働くことができましたね

ただ、「モノづくりのエンジニアとして活動したい」という思いがあったため、次第に転職を考えるように。同部署はセールスのサポートをする部隊で、モノづくりをするには本国アメリカにいかないといけなかったのです。

そんななかで、IPA(情報処理推進機構)が手掛ける、独創的なアイデアや技術を持っている人材発掘を目的とした「未踏ソフトウェア創造事業」というものが目に入りました。提案したプロジェクトが採択され、1年間ほどフリーランスとして自分たちで考案したソフトウェア開発に没頭することができました。

未踏ソフトウェア創造事業が完了したのち、ご縁があって、あるベンチャー企業に開発を継続するチャンスを与えていただき京都に戻ってきました。その会社に在籍している間に、上場する様子を間近で見させていただくことができたのです。事業や会社が成長する面白さを感じ、「自分でも何かを生み出したい」と起業も考えるようになりましたね

染田さんからのメッセージ

企業規模の特徴を押さえ、自分に合ったファーストキャリアを選ぼう

まさか自分がベンチャー企業に就職するとは想像もしていなかったです。でも、そういう選択をしたことで、「こういう環境が向いているんだ」「自分で事業をやりたいかもしれない」などといろいろな気付きが生まれました。

大企業でもさまざまな経験をさせてもらいましたが、どうしても自分ができる仕事の範囲は限られていたように感じます。一方でベンチャー企業は、自分がかかわれる範囲が大きく、仕事に対してダイレクトに手触り感を得られます

大企業とベンチャー企業、どちらが良いということはありませんが、ファーストキャリアという特権を活かすのであれば大企業がおすすめかなと思います。中途だとなかなか大手企業への転職は難しかったりもするので、最初に就職しておくのも選択肢を広げるための1つの手ですよ。

もしベンチャー企業に最初からチャレンジしたいのであれば、本当に自分にあうのかどうかをインターンを通じて体験をしてみるのはおすすめです。また、インターンをきっかけに採用につながるなど、採用選考の枠組みを超えてチャンスが巡ってくることもあるので、どんどん行動しても良いと思います。

染田さんからのメッセージ

売上があってこその給料である。ビジネスの基本を知っておこう

上場を経験させていただいたベンチャー企業の同僚と一緒に、IT エンジニア向けの e-learning を提供する会社を立ち上げました。

創業メンバー3人の自己資金で設立し、「こんな感じで事業成長させていこう」と事業計画を立てて、華やかなキャリアをイメージしていましたが、現実は厳しいものでした。毎月銀行の残高が減っていくなかで、どうやって売上を立てれば良いのだろう、どういう風に給料を賄うのだろうと、資金繰りに頭を抱える日々が続きました。

起業をして学んだのは、当たり前のことですが、自分たちのプロダクトやサービスを作るだけではなく、それが生み出す価値に対して対価をいただいてはじめて、自分や仲間の給料が生まれるということです。

それまでは会社から給料をもらえるのが当たり前で、仕事や人生をどう楽しもうかと考えていました。でも起業をして売上を立てて給料を支払う立場に変わったことで、事業を成り立たせることの難しさを痛感し、ビジネスの厳しさを知ったのです

どれだけエンジニアとして一生懸命良いプロダクトを作っても、それに対価を支払ってくれるユーザーが集まらないと、持続可能な事業としては成立しないのだと分かりました。

目の前のチャンスを掴み取り、キャリアを形成

HACARUS(ハカルス) 代表取締役COO 染田 貴志さん

山あり谷ありの日々を過ごすなかで、なかなかビジネスが立ち行かなくなり、取締役を退任することに。ベンチャーならではの大変さに弱気になっていたこともあり、次の転職を考えたとき最初は安定している京都の大手企業に行こうと思っていたんですよ。

しかし何社かに連絡しても1社も面接すらしてもらえなくて。たまたまタイミングが悪かったり、スキルが合っていなかったりしただけかもしれませんが、その時、「神様の思し召しなのかも……これはもう一度ベンチャーに挑戦したほうが良いのかもしれない……」と思ったんですよね(笑)

そんななかで、エンジニアのコミュニティで接点のあった方から、一緒にやらないかと声が掛かったのです。福岡が本社だったのですが、「京都拠点を立ち上げてもらって良いよ」というありがたい言葉もいただきました。当時はまだリモートワークも一般的ではなかったので、あまり経験できないことだと思い、あらためて覚悟を決めてチャレンジしてみることにしました。

入社後は、フロントエンドからバックエンドまでのアプリ開発全般や、テクニカルマーケティングやグロースハックにも携わり、さまざまな仕事を経験させてもらいました。サービスや企業が大きく成長していく中で働く充実感を感じる一方で、もう一度創業に近いステージから、経営に近いところで、グローバルに向けた仕事をしてみたいという思いが少しずつ芽生えてきて、転職を考えるようになりました。

ちょうどその頃、HACARUS代表の藤原が「エンジニアを募集しています」という発信をしていたんです。彼とは以前、ベンチャー企業が集まるコミュニティで知り合っていました。ちょっと話を聞いてみたいと思い、共通の知人を介して直接話を聞くことにしました。

カジュアルな雰囲気のなかで、前職での仕事内容や経営にも興味があることを話すと、その場で「CTOに興味ありませんか? 」と切り出されたんです。驚きはしたものの、自分がやりたいことやタイミングが上手く噛み合うこんなに良いチャンスはないと思い、入社を決めました

染田さんのキャリアにおけるターニングポイント

仕事も就活も、「相手に興味を持つ」ことが大切

今までのキャリアを振り返ると、社内外を問わず、人とのつながりに助けられているなと思います。最初は知人の一人だったとしても、数年後に一緒に仕事をするような仲になることもありますし、キャリアを形成するうえでも、モノづくりに励むうえでも重要な部分だと考えています。

エンジニアを志している人は、作業だけに打ち込みたいという思いが強いかもしれませんが、エンジニアこそ人とのご縁は大切にしてほしいですね。それによって後々の運やチャンスに恵まれていくと思います。

ぜひ学生のうちからいろいろなコミュニティに足を運んだりして、枠を飛び越えるような経験を積んで、つながりを広げてみてくださいね。

人とのつながりやコミュニケーションで大切にしているのは、相手に対してしっかり興味をもつことです。普段かかわる企業や社員に対して興味をもち、積極的に関係性を深めるようにしています。

就活も同じく、コミュニケーションが重要です。行きたい企業、気になる企業にしっかり興味を持って示すことができると、面接担当者の方の印象にも残ります。実際に面接を担当した際も、他の人とは違うくらいの熱量で面接に臨んでくれている人がいると私たちも嬉しくなるし、印象にも残る気がします。

ベンチャーで活躍できるのは、自分で決めて挑戦できる人

これから活躍できる人材というのは、今は多様性が認められている世の中なのでテンプレ化することは難しいですが、少なくともベンチャー企業では「自分で物事を決められる人」は重宝されると思います。

というのも、ベンチャー企業はそもそも、世の中にないものを作っていくという役割なので、「こうすれば上手くいく」「絶対にこれをやってほしい」といった決まり切ったものはありません。何が正解なのか分からないなかでも、恐れずに何かを決断して物事を進めていく必要があります

不確実ななかでも意思決定をする。限られた情報のなかでベストな選択をする。そういう意識をもって仕事に向き合える人は活躍できるでしょう。

ベンチャーで活躍する人材とは

そのような人材になるために今すぐできるアクションは、「やったことのないことをやってみること」です。コンフォートゾーン、すなわち自分が安心を感じられる領域を超えて、新しいことに挑戦してみましょう。

どれだけ小さなことでも構わないので、新しい趣味をはじめてみたり、社会人とかかわれるコミュニティに入ってみたり。日常生活のなかでも、意思決定を意識するようにしたりと、できることから実践してみてくださいね

ベンチャーで働く立場としては、就活生の方がベンチャーへの就職を検討してくれることはとても嬉しいです。ぜひ一緒に頑張っていきたいと思っているので、新卒からチャレンジしてみたい人は、ご自身の選択を大切に就活に臨んでくださいね!

染田さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:志摩若奈

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