何社かを経て、心からやりがいを感じられるフィールドが見つかることもある|就職はキャリアのゴールではないと理解しよう
スマテン 代表取締役 都築 啓一さん
Tsuzuki Keiichi・学生時代に名古屋市内でバーを開業。大学を中退し、5年間、店舗経営を手掛ける。その最中に東北大震災が発生し、復興支援ボランティアにかかわるなかで、心からの情熱を持てる業界や仕事を探すように。太陽光発電や福祉関係の企業を次々と創業するなかで、消防業界に注目。業界の活性化とアナログな業界をアップデートする必要性を感じて2018年にスマテンを設立、以降現職
自分が活躍できる場所を探し続けた学生時代。大学を辞め店舗経営にチャレンジ
キャリアにおける最初のターニングポイントは、自分が活躍できる場所を探し続けた学生時代です。小学校では野球部で副キャプテン、中学や高校ではバスケットボール部でキャプテンを務め、目立ちたい気持ちが強いタイプではあるものの、勉強もスポーツもそこそこできる程度。特別何かに秀でているわけではないものの、負けず嫌いな性分ゆえに「自分が勝てる場所はどこだろう? 」という目線を常に持っていました。
物理が得意だったので理系の私立大学に進学しましたが、国公立の大学に落ちた人が大勢入ってくる大学だったので、思いのほか優秀な同級生が多く「ここで4年間積み重ねても、差が開くだけだろう」「このまま大学生をやってサラリーマンになっても、自分の活躍できる場所を探せない」と感じるように。とりあえず大学に籍を置いたまま旅に出てみることを決め、単身バックパッカ―として、インドなどのアジア各国を巡りました。
並行して、地元のサッカークラブのサポーターとなり、中国遠征に出かけるなどコアなサポーター活動もしていました。そこで仲良くなったメンバーと意気投合して、3人でバーを立ち上げることに。そのうちいろいろあり、半年後には1人となる波乱の幕開けでしたが、株式を買い取って単独オーナーとなり、別の同級生2人を誘って再スタートしました。
朝から夜まで働く生活を3年間ほぼ毎日必死でやったことで、20歳になる頃には、行列ができるお店を作ることができました。空き席が出ればすぐ外へ出て声がけをするなど、皆で熱心にお店を盛り上げていたことも、人気店を作れた理由かと思います。たった9坪のバーに、毎日140人前後が訪れる状態となり、3年間プライベートで出かけたことは一度もないほどの忙しさでした。
そのうちコンサルタントと経営をしていくことに。しかし好調な業績と人を信じ込んでしまう性分が災いし、一気にどん底へ突き落されました。大変な状況に追い込まれたものの、当時の私は「苦労している=成長しているはず」と思い込んでいました。
常連のお客さんが何度も助言をくれ、具体的に力も貸してくれたことで、一歩踏み出すことができました。このとき22歳。「仲間で集まれる場所が欲しい」「没頭できる仕事を探したい」という思いから取り組んでいたバー経営でしたが、それらはまだ見つかっていない感覚でした。
紆余曲折を経て、ついに心からやりがいを感じられる領域に出会えた
常連のお客さんに助けられてからの半年間は、それまでの苦労から解き放たれたように、プライベートでも大好きな外食に出かけるようになりました。お店も引き続き好調でしたが、余裕があると甘えが出てくる自分にも気付き、「収入が減ってもリスタートしよう」と決意。お店をスタッフに譲り、自分は新しいチャレンジをすることにしました。
次の道を考えるにあたり、きっかけとなったのが2011年に発生した東日本大震災です。地震発生の1週間後にはトラックを借りて被災地ボランティアに出かけ、現地で炊き出しや物資支援を行ったのですが、このとき見聞きしたものが、社会と事業の関係性を考えるきっかけになりました。その意味で、この経験もターニングポイントのひとつと言えるかと思います。
まずは営業会社を立ち上げ、1年半後には太陽光発電の会社を、続いて就労支援施設を運営する福祉関係の会社も設立。諦めずにやり切る姿勢は徹底していましたし、胆力や営業力はあるほうだと思うので、いずれの会社も軌道に乗せることができました。
十分な利益も出せていましたが、一方で、個人的には事業や会社に対する「熱」が十分ではなく、心の底からのやりがいを感じることができない、というジレンマも感じていました。「トップがその事業を面白がっていなければ、かつ思い入れを持てなければ、仲間を不幸にしてしまう」という考えもあり、私自身が成長意欲を持てる領域を探し続けていたのです。
いろいろな事業を立ち上げ、軌道に乗せては組織ごと譲る……という繰り返しをするなかで、ついに自分の手でやり続けていきたいと思う事業に出会いました。それが現在の消防事業です。
2016年に消防設備士を集めて法令点検をおこなう事業をスタートしたのですが、重要性が高い割に世間的な認知度が低いこと、固定概念が強く、テクノロジーも揃っていないアナログな業界だということがわかってきました。大手が参入するほどの市場規模がなく、我々のように外部から入ってくるベンチャー企業が変えていく意義も感じられたことから、2018年に別会社として当社スマテンを設立し、現在に至ります。
この領域に関わり始めて7〜8年になりますが、非常にやりがいを感じられていますし、自分の存在意義を感じられる、キャリアをかけてやりたい事業領域だと思うことができています。参入コストや障壁がかなり高いので、競合他社も現状のところ出てきていません。「自社でしかできないことをやっていきたい」という私のこだわりに合致する、唯一無二の事業領域をようやく見つけられた、そんな手応えを得ています。
何かに執着しすぎるとチャレンジができない可能性も。「成長し続ける人」を目指そう
キャリアにおける意思決定とは、つまり「何に一番執着するか」である、というのが私の考えです。
当時の私が一番執着していたのは、自分が大きくチャレンジできる環境を作ること。執着する対象がお金であれば、5年間経営してきて、利益も出せているバーをたった2週間で友人に譲ってしまう、なんてことはできなかったと思います(笑)。「安定した収益があるとチャレンジができない」と思い、自分を奮い立たせるためにお店を譲る決断をしました。
失敗も、つらいこともたくさんありましたが、これまで出会った人たちには総じて感謝をしています。失敗を通じて身に付けられたものはたくさんあり、いうなれば、人生のパーソナルトレーニングジムで鍛え上げてもらった感覚です(笑)。
ただ当時は、自分のことや、自分がどうあるべきかしか考えていませんでした。30歳を過ぎる頃からは「自分の意思決定で人を幸せにも不幸せにもできる」ことを認識し、仲間の人生を左右する立場であることを強く意識するように。幼少期からずっと自分に向いていたベクトルが「組織」に向くようになり、全体最適を考えるようになったことは、キャリアのなかでも大きな変化と言えるかと思います。
これからの社会で活躍できると思うのは、「成長し続けられる人」そして「柔軟さがある人」です。ベンチャー企業やスタートアップ企業においては、それがイコール「優秀」の定義だと思います。
成長し続ける人は、経験のないことにも臆せずチャレンジしますし、ひとつの考えに固執せず、正しいと思える人の意見は採り入れる、そんな姿勢もある人が多いように思います。
また、時代の変化を見ながら柔軟に物事を考え、臨機応変に対応できることは、業種や企業を問わず、重要になる要素だと思います。型にハマらず変われる人・組織でなければ、これからの時代には生き残れない気がしますね。
ときには、それまでの勝ちパターンの真逆を選ぶことも必要になるでしょうし、大事にしてきたことを思い切って捨てなければならない場面もあるでしょう。そのためにも、「変な執着をしない」姿勢は大切ですし、失敗経験も絶対に積んでおくべきだと思います。
何かに執着しすぎるとチャレンジの足枷になりますし、自分で失敗しなければ、なかなか本気で成長しようとは思えないのが人の常。失敗する手前で誰かがフォローしてくれる環境だと「自分の意思決定が正しかったかどうか」の結論が出ないので、十分に成長ができないと思いますね。上司の立場としては、時には部下自身に失敗を気づかせてあげることも重要だと考えています。
世の中で大きな成功をしている人=たくさんの失敗をしてきた人。社会人としての活躍や成功を望むならば、「いかに多く失敗をして、より大きな意思決定ができる環境を作るか」を意識しながら仕事をしてみるのがおすすめです。
ポストが上になるほど、重たい決定を任されることになりますが、失敗経験をたくさんしていれば「ここまでは失敗できる」というギリギリのラインもわかるようになってきます。
つらいことがあっても「壁にぶつかった」とはあまり考えません。「これは壁だな」と意識すると、身構えて足を止めてしまうだけ。「向かい風が吹いている」くらいに理解し、前に進んでいるつもりで行動を続けることで、結果的に壁を乗り越えられている、という感覚です。
それに物事がうまくいかないときほど、たくさん頭を使って考えるもの。後から振り返ってみれば「あの経験が後々のチャンスにつながった」と思えることも多いように思います。
1社目の経験は「その後の基準」になる。自分が目指す方向性から最適な選択肢を考えよう
私自身は一般的な就職活動をしていませんが、ファーストキャリアにどこを選ぶかは重要だと思います。新社会人は、いわば何も描かれていない真っ白なキャンバスの状態。「1社目でどのような色に染まるか」は、その後のキャリアにかなり影響します。
目指す方向性によって選ぶべきファーストキャリアは変わりますが、将来に向けてチャレンジしたい思いがあるなら、あえて激務の会社に飛び込んで苦労してみる、というのもひとつの選択肢だと思います。
仕事はまず量をやらなければ、質を上げることはできません。若いうちからチャレンジさせてもらえない環境にいると、目指す将来への遠回りになってしまうことも。
加えて、転職をする際には必ず1社目と比較することになります。1社目が至れり尽くせりの会社だと、次の会社で不平不満ばかり言うようになり、使えない社員になっていってしまう可能性もある気がします。
士業など、特定の専門領域のキャリアを積みたい人ならば、大手企業で学ぶことも大事だと思いますが、マルチに活躍したい人はベンチャー企業やスタートアップ企業もおすすめです。
良いベンチャー企業・スタートアップ企業を見極めるポイントとしては、経営者の発信していることに一貫性があるかどうか。「社外にはこんな発信をしているのに、社内では違うことを言っている」ということだと、入社後にギャップを抱いてしまう可能性が高いように思います。
就職活動でも必要以上に、会社に合わせる必要はないと思います。取り繕って入社をしたところで、後々を考えればお互いにハッピーではないですし、ありのままの自分を伝えて判断してもらったほうが、長い目で見れば良いことが多い気がします。
あくまで私の意見ですが、学生に対する期待値は未知数で、人間性重視で見ている企業が多い印象なので、就職のための勉強なども特段しておく必要はないと思います。
そして至極当たり前の話ですが、「良い企業に就職することがキャリアのゴールだ」などと、就職活動の目的をはき違えないことも重要です。結婚などと同様、就職はあくまでスタートです。
「周りを活かせる人」でいたほうが、組織はうまく回る
これまでのキャリアを振り返ってみると、改めて「優秀な仲間たちに恵まれてきたな」と感じます。自分に対する自信は持っていますが、私はいつも「自分より優秀な人を誘って仲間にしていくこと」を考えているタイプで、「周りを活かす」というスタンスが、成果を生み出す原動力になってきたように思います。
バー経営を離れた後、いろいろな企業を立ち上げていた時期には「舐められたくない」という思いから、自分を必要以上に大きく見せようとしていたこともありました。しかし、そうした意識では組織はうまく回らない、と身をもって体感できました。多少迷惑をかけたとしても、周りの人に快く「協力しよう」と思ってもらえる組織を作ったほうが、会社はうまく回る気がします。
そうした経験を経て、今は「相手のほうが得意だと思えることについては、信頼して全面的に任せるトップでありたい」という考えです。極論、トップが愛嬌しかないような人間でも幹部が優秀ならばうまくいく、とすら思っています。
会社のビジョンを達成すること、そして社会にもとめられるサービスを作り続けることが、これからのビジョンです。業界全体の変革にも使命感を持って取り組んでいますし、数年前から趣味として取り組んでいるトライアスロンでも、年月1回はアイアンマンレースに出るなど、目標を持ってチャレンジを続けています。
仕事もトライアスロンもそうですが、キャリアの終わりは考えていません。60歳になっても90歳になっても、可能な限りチャレンジを続けていこうと思っています。
取材・執筆:外山ゆひら