ビジョンは好奇心×野心で描け|AIにはない「野心」こそがヒトの価値になる

BitStar 代表取締役 社長執行役員CEO 渡邉 拓さん

BitStar 代表取締役 社長執行役員CEO 渡邉 拓さん

Taku Watanabe・慶應義塾大学大学院理工学研究科卒業。学生時代にモバイルマーケティングの分野で起業。その後、ベンチャー企業でマンション向け電気自動車カーシェアリング事業を立ち上げる。独立後、友人のYouTuber支援をきっかけに2014年にインフルエンサーマーケティングプラットフォームを展開するBitStarを創業。以降現職

この記事をシェアする

好奇心を掘り下げた先にキャリアの「きっかけ」がある

学生時代はサッカーに熱中していました。体育会で真剣にプレーしていましたが、3年で引退してしまうと、次に熱中できることを探したいと考えるようになりました。

そこで始めたのが、ビジネスです。ちょうどモバイルビジネスが普及し始めるタイミングで、店舗向けにリアルタイムでクーポンを発信できるアプリを開発しようと思い立ちました。

当時は類似のサービスはなく、飲食店のクーポンの発信もPCサイトや紙媒体がメイン。まだ誰もやっていない事業を始めたというワクワクがあり、楽しかったですね。「これ一本で稼いでいこう、事業として成長させよう」という覚悟などはなく、あくまでアルバイトの代わりのような気持ちでしたが、好奇心の先に何かを作り上げていく手応えを感じられました。

好きだと思うこと、おもしろいと思うことの先に、キャリアのきっかけや人生の転機があると思います。だから自分の好奇心を大切にして、とことん掘り下げてみると良いでしょう。

本を読む、情報を集めるだけでなく、その関心を共有するコミュニティに足を運んでみるのも良いと思います。さらに自分でも発信していけば、コミュニティの輪もより大きく広がるはずです。

好奇心はとことん掘り下げよう

おもしろいと思うことがないなら、友達を作って流されるのもアリだと思います。人生の転機が、遊びの延長に見つかることは多いものです。少しでも心が動くことがあれば、その先へと掘り下げてみる。ここから始めてみてはどうでしょうか。

他を圧倒する壮大なビジョンが未来を切り拓く

学生起業のビジネスは程なくして畳んでしまいましたが、そこで出会った先輩にシリコンバレー行きを進められました。次の目標を探していたところだったので、言われるがままに渡航し、紹介してもらった起業家にも会いに行きました。

その出会いをきっかけにして、ほかの起業家、投資家、MBA生やエンジニアたちとの縁がつながり、大いに刺激を受けましたね。当時のシリコンバレーにいた人たちは、比較的少人数でビジネスを立ち上げていましたが、皆非常に大きな志を持っていました。壮大なビジョンを語るのを見て圧倒され、自分もそうありたいと思うようになったのです。

人生の大切な時間を費やして何らかのキャリアを築く、もしくはビジネスを作り上げていくのであれば、そこにはビジョンがなければ意味がないと思います。こうなりたいという強い意志や思い、展望があるからこそ、人は自分を律して努力できるのではないでしょうか

かく言う私は、「100年後に名前が残る産業・文化をつくる」というビジョンを抱くようになりました。その思いが、後の起業へとつながっています。

人との出会いがキャリアを形作る。相手を主語にした接し方を

大学院卒業後は、シリコンバレーで興味を抱いたクリーンテックの分野についてビジネスを模索し、特に電気自動車で何かできないかと試行錯誤しました。そこでマンション工事会社の社長と出会い、意気投合。電気自動車のシェアリングサービスを立ち上げることになりました。ここでさまざまな経験を積み、その後、友人のYouTuberを支援したのをきっかけに現在の会社を起業しました。

渡邉さんのキャリア変遷

振り返ると、さまざまなきっかけをくれたのは“魅力的な人”でしたね。シリコンバレーに誘ってくれた先輩、そこで会った起業家たち、そして自分の後押しをしてくれた前職の社長、創業した会社にジョインしてくれた学生時代の友人──。良い出会いが今の自分へと導いてくれたのだと思います。

そのような出会いは、黙っていれば勝手やってくるわけではありません。出会った人とどうかかわっていくか、どのように関係を築いていくかが重要です。

そのうえで大切にしたいのは、相手の立場に立つこと。相手がどのような意図で、何を思って、どうしたいのか。つまり、相手を主語にして考えることで、信頼関係を築けると思います。実際に私自身も、相手を主語にした真摯な向き合い方から顧客・クライアント・クリエイター・株主との関係性を築いているように思います。

困難の解決法は先人に学ぶ

BitStar 代表取締役 社長執行役員CEO 渡邉 拓さん

起業後はちょうどコロナ禍だったこともあり、金銭的に苦労することも多くありました。一部の事業を売却して、何とか従業員の給与を捻出したこともあります。ハードな体験ではありましたが、落ち込んだりはしませんでしたね。

どのような困難にも先例があるものです。これだけ長い年月人類史を積み重ねてきているわけですから、あなたの課題は誰かがすでに解いた問題であるはず。困ったら先例に当たれば良いと思います。本を読み、Webで調べ上げ、似たような問題に詳しいと思われる人に聞いてみれば解決する可能性が高まるでしょう。

これまでの経験上、特に人から学ぶことが多いので、協力を仰げるようなコミュニティに身を置いたり、先人との関係づくりが大事だと思います。もちろん最終的な意思決定をするのは自分自身であり、それぞれに置かれている状況が違うので、完璧な答えが得られるわけではありません。それでも先人の生き方は、人生を歩むなかで壁に突き当たった際に大変参考になるかと思います。

先人からの教えを問題解決に活かす方法

求められるのは野心を持って未来を描く力

問題解決の一つの方法として、AI(人工知能)の活用も進んでいます。今後もAIはあらゆる場面で活用され、私たちの生活から切り離すことのできない存在になっていくでしょう。なかにはAIに取って代わられる仕事もあり、そのような状況下では、AIではなく人間がやるべきこと、人間にしかできないこととは何かを考えていく必要があります

その答えとして、一つは「野心を持つこと」が挙げられると思います。意志や意欲を持って未来を思い描くというのは、現状では人間にしかできませんし、今後もそうした機能はAIに搭載させることができないのではないかと思いますね。だからこそ野心を持ってビジョンを描き、方針を定めることができる人材は、これからも必要とされるでしょう

若いから、経験がないから、知識が足りないからと尻込みをせず、未来を描く能力を身に付けてください。どのようなものであれ野心を掲げ、そこに追いつくために能力、人格を磨くことによって、さらに自分の価値を上げることにつながっていくはずです。

渡邉さんからのメッセージ

理想実現の近道は目線の高さが合う場所に身を置くこと

野心にはレベルや方向性があります。野球を極めたいと思ったとして、同じ「極める」という行動であったとしても「メジャーリーグで活躍したい」と「草野球の監督になりたい」は、まったく別の欲求ですよね。だからこそ心に野心が芽生えたときは、その方向性やレベルが近いと感じられる場所に身を置くことを大切にしてください。そのような環境で自分を磨き努力をすれば、手応えを感じながら活躍できると思います。

就職先を選ぶときにおいても、自分の望みをしっかりと見すえ、目線が近いところを選ぶと違和感が少なくなるでしょう

世界を目指すのか、国内で活躍したいのか、地域に密着して価値提供をしていきたいのか。トップに立ちたいのか、専門性を磨きたいのか、ゼネラリストになりたいのか。量が欲しいのか、質を極めたいのか──。

そうした自分なりの価値観を明確にし、野心を満たせると感じる会社に身を置くことが、納得のいくキャリアを形成する近道だと思います。

好き=成長意欲の方程式でキャリアを積み重ねよう

好奇心の赴くまま好きなことを掘り下げて、その先に野心を持ってビジョンを描けば、充実したキャリアを積み重ねていけるでしょう。

しかし、なかには貪欲に成長や成果を目指さなくても充足感を得てしまい、成長意欲がなくなる人もいます。「好きなことができているから、今の状態で良い」と思ってしまう場合です。

最近は経営者として人材を育成するにあたって、「好き」と「成長意欲」の二つの要素の両立が大事だと考えています

キャリアがビジネスに結びついている以上、両方を成長させていかなければなりません。事業というものは、成長や発展がなければ成立しない世界だからです。それでも、好きだという純粋な気持ちや、好奇心は捨てずに大切にしてほしいと思います。好きだからこそ成長していける、というのがベストですよね。

好奇心をないがしろにせず、自分の興味関心を活かしながら、成長意欲も大きく育てることを意識してください。そうすれば、あなたの進むキャリアはきっと素晴らしいものになるはずです。

渡邉さんが贈るキャリア指針

取材・執筆:鈴木満優子

この記事をシェアする