答えなき探究の先にキャリアを描け|絶えない熱が創造する理想の未来

ちゅらデータ 代表取締役 真嘉比 愛さん
Ai Makabi・ 沖縄県出身。2014年、長岡技術科学大学大学院卒業後、VOYAGE GROUPにデータサイエンティストとして就職。DATUM STUDIOを経て、2017年沖縄県浦添市にちゅらデータを創業、以降現職
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答えのない課題に対する試行錯誤こそがキャリアの土台を作る
生まれ故郷である沖縄に高等専門学校(高専)ができると聞いて、ワクワクしながら門を叩きました。もともと父親のPCを触ったり、自分でPCの電子基板であるマザーボードから組み立てたりしていたので、おもしろそうだなと思ったのです。実際入学してみると、思っていた以上の経験を重ねることができました。
高専ではとにかく実験の数が多く、レポートも大量。答えのない問いに向かって試行錯誤し、結果を論理的に検証し、さらに精度を高めていく毎日でした。文章力や論理的思考力も鍛えられたと思います。とにかく毎日必死で課題に向かって、頭と手を動かしていました。
こうした課題に向かって実際に手を動かす姿勢は、どんなキャリアでも重要です。おもしろそうだと思ったら足を運び、触れてみる。そしてできればやってみて、失敗も体験する。この一連の試行錯誤は、まさに実際の仕事と一緒です。
答えのない課題をなんとか解決しようと、さまざまなアプローチをすることで得られる手触りは、貴重で素晴らしいものです。花を見たことがない人は、花屋になりません。音楽を作る人になりたい、というなら作り始めてみれば良いのです。ぜひ若いうちから、実際に泥臭く動く経験をしてほしいですね。
今思い返しても、高専での試行錯誤の経験があったから、大学院を経てデータサイエンティストになり、起業までたどり着けたのだと思います。

参加したインターンで見出した自分のキャリア観
高専から大学、大学院を経て、自分のこれからのキャリアを考えようと、いくつかインターンシップにも参加しました。官公庁、GAFAの一角、大手IT企業──有名な大企業の様子を見たいと思い、意気揚々と通いました。しかし、インターンの時間が経つにつれて、違和感が大きくなっていったのです。
違和感の正体は、手触り感のなさ。大きな企業では自分の仕事がどのようにエンドユーザーに届くのか、手応えを感じにくいと考えるようになりました。
自分が今やっている仕事や製品・サービスが、営業を通じてどのように提供されるのか、お客さまの反応はどのようなものなのか、そのフィードバックはされるのか・されないのか、プロデューサーはどんな意図を持って指示をしているのか。人が多く、組織が複雑であるがゆえに、自分の仕事のインパクトが見えないと感じました。
この違和感によって、「今やっていることの意義を常に感じながら働けること」が自分のなかの大きなモチベーションであることに気づきました。比較的小さなチームで、自分の行動がどんな効果を与えているのか、チームメンバーの意思も理解したうえで仕事をしたいのだと、このとき初めてわかったのです。

インターンは憧れの企業を見学できる機会であり、選考を有利に進められるかもしれないチャンス。そんなふうに思ってチャレンジする学生さんも少なくないでしょう。しかしそれだけでなく、自分の価値観に気づく場でもあると思います。インターンでしっくりこなかったときに「自分に合わなかったんだ」で終わるのではなく、そこから自分のキャリア観を探ってみても良いかもしれません。
環境が人を作る。自分の成長に必要な要素を見極めよう
自分の仕事の意義が感じられる場所で働くという信念のもと就職先に選んだのは、比較的コンパクトな組織ながら熱量の高い社員が多いIT企業でした。周りの人が情熱を持って仕事に取り組んでいる、ということも重視したのです。
私は環境に大きく影響を受ける人間で、大学院の研究室を選ぶときにもあえて厳しいと噂の場所を選びました。ゆるいところでは怠惰になってしまうので、真剣に課題に取り組むエネルギッシュな人たちが集うところで力を伸ばしたいと思いました。そして想定通り、必死で食らいつくなかで大きく力を伸ばせたと思います。
だから就職先でも、先輩社員や経営陣の熱量は重要なポイントでした。私の場合、厳しくも情熱的な環境でこそ一番成長できると確信していたからです。
ただしこの点は人によって違いますよね。私のように自分を追い込む状況に置かれたほうが成長できる人もいれば、優しく見守ってくれる場所のほうがのびのびと成長できる人もいると思います。
いずれにせよ、環境が人を作る大きな要因であることは違いありません。成長したいなら自分が一番成長できる環境を定義づけて、そこに飛び込んでみるのがおすすめです。
周囲との関係性構築が成長への第一歩
成長に必要なのは、環境に加えて適切なフィードバックをもらうことです。多くの場合、人は先輩やお客さまといったさまざまな立場の人から、アドバイスや注意、励ましをもらいながら成長していきます。

しかし「最近の若い人は注意されると落ち込んでしまう」「助言すると怒ってしまう」という話も聞きます。ハラスメントなどの問題もあり、必要なフィードバックがうまくできていないこともありそうです。こういった話題を聞くたびに、私はそもそも前提がおかしいのではないかと思っています。
フィードバックに対してネガティブな反応になってしまうのは、関係が浅いからではないでしょうか。初めて会った人に突然ダメ出ししたり、されたりすることはないですよね。上司と部下であっても、お互いに言いたいことを言える“心理的安全性”が確保されないと、シビアな発言はただの暴言になってしまいます。「怖い人に怒られた」では有意義なフィードバックにならないのです。
上司や先輩がその関係づくりをすべきなのはもちろん、若手側も成長したいのであれば、上司や周りの人と少しずつでも距離を縮めて、言いたいことを言えるような関係になることを目指しましょう。
たとえば当時私が勤めていた企業では社内にBARがあって、ちょっと話をしてみたいと思った人に「BARで少し話しませんか」と声をかけやすかったのを覚えています。そのようなちょっとしたコミュニケーションの場を増やして、もう一歩だけ近づく意識をしてみてください。そのようななかで「成長したい」という意思を伝えられれば、相手は有益なフィードバックをしてくれるようになるかもしれません。
かくいう私も、データサイエンティストとして同社に初めて採用され、どんな仕事をすべきかという土台から作り上げていかねばなりませんでした。自分のやるべき仕事も規定されていないなかで、諸先輩方のフィードバックなしには的外れな行動しかできなかったと思います。助言、注意、叱咤、激励、賞賛、これらがすべて成長の糧になるのは間違いありません。
ベストコンディションは後から作る。チャンスはまずつかもう

データサイエンティストとして働きながら心のどこかで思っていたのは、沖縄のことでした。沖縄のエンジニアは仕事の質や賃金の面であまり良い環境にあるとは言えず、そのことがずっと気掛かりだったのです。「もし将来沖縄に帰るとしたら、そのときは私がエンジニアにとって良い環境を一から作り出そう」と決めていました。
すると意外なタイミングで、社内起業ができるチャンスが巡ってきました。その段階でしっかりとした事業計画があったわけでも、準備ができていたわけでもないのですが、これはまたとない好機だと思い手を挙げましたね。今こそ沖縄でデータ活用の企業を作り、働く人とサービスを受ける人、双方が幸せな環境を作ろうと決意しました。
私が大切にしているのは、チャンスが舞い降りてきたときに機を逃さずつかむことです。とはいえ、いつも都合良くベストコンディションのときにチャンスが巡ってくるわけではありません。準備が整っていない。もしかすると50%の確率で失敗するかもしれない。それでも、貴重なチャンスが来たら、まずはやってみてほしいと思います。
多少見切り発車でも、失敗はやり直せます。自分で決めて始めたのなら、やり切るしかないという覚悟も決まります。気持ちが固まったからやるのではなく、やるから気持ちが固まるのだと思っていたほうが、チャンスを逃さないと思います。

枠から飛び出した先に理想の未来を見つけよう
起業後は自分の力のなさを感じたり、新型コロナウイルス感染症の流行によって状況が想定とは変わってしまったり、大変なことも数多くありました。でも、落ち込んだりはしませんでしたね。事業の幅を広げるなど、とにかくさまざまな手を打ち枠を決めずに挑戦を続けました。
これからの時代に求められるのも、枠に収まらない姿勢だと思います。テクノロジーは急速に進化していくので、それにかかわる職種も移り変わっていくでしょう。新しい職業が生まれ、ある職種は統合され、あるいは越境していき、さらにマルチな役割を求められるようになるものもあるかもしれません。
そんな状況下では、「自分の業務はこれ」と固定したり、「このスキルを極める」と固執したりすると、万が一そのスキルが活かしにくくなったときに何もできなくなってしまう恐れがあります。
枠組みを自分で決めずに、興味関心を持って学び続ける姿勢こそ、これからの人材に求められるマインドなのだと思います。私の身の周りにいらっしゃる先輩方は、経験を積み重ねて多様なアプローチでテクノロジーに向き合っています。年齢を言い訳にしないどころか、むしろ若手にない創意工夫に満ちています。私もいつまでも情熱を持って学び続け、ワクワクし続けたいですね。

取材・執筆:鈴木満優子