キャリアは直感で広げ縁でつなぐ|前に進むための熱源を探し続けよう

ライトワークス 代表取締役 江口 夏郎さん

ライトワークス 代表取締役 江口 夏郎さん

Natsuo Eguchi・東京大学卒業後、1991年農林水産省入省。イェール大学ビジネススクール(MBA)修了。創業間もないグロービズに参画し、執行役員を経て2001年ライトワークスを設立。2002年代表取締役に就任、以降現職

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「直感」から始まった思いがけないキャリア

1980年代、当時一般向けに発売されて間もないパソコンを、父と秋葉原に買いに行きました。父が店員さんに「これって何をするものなの?」とたずねていたことを思い出します。パソコンはそれくらい完全に新しいものでした。ITやデジタルを活用した仕事をする最初のきっかけですね。

若い頃にもう一つ関心を抱いていたのが、バイオや環境の分野。人間が地球で暮らし続けるために重要な分野であり、これからどんどん進展することを期待して、大学は農学部に進学しました。研究はおもしろく、研究者として大学に残ることも考えたのですが、農水省で研究をしないかと声をかけてもらって、直感的に「行ってみよう」と思い、入職しました。官庁に入れば、米国留学のチャンスがあるという言葉にも魅力を感じましたね。

入職後は研究職ではなく行政官になったのですが、思ってもみなかった世界が広がっていて、本当にやりがいを感じる日々でした。法律を守る側ではなく、作っていく側に立って、社会全体のために政治と協調しながら、世の中を良くするために動いているのを実感できました。大学で研究をしていただけでは見えなかった景色だと思います。

実際、農水省に入りたかったのか、官僚になりたかったのかと聞かれれば、それほど深く考えていなかったと思います。でも「何かおもしろいことがあるかも、自分に合っているかも」とピンときたのです。結局のところ非常に実り多い経験ができたので、直感は侮れないなあと思います。

「直感」によって予想外に実りあるキャリアが開かれることも

年齢を重ねて友人に再会すると、思い描いた通りのキャリアを歩んでいる人なんてそうそういません。びっくりするような経験をして、思いもよらない人生を歩んでいる人がほとんどですが、それは決して悪いことではないのですよね。皆充実した顔をしています。だから、考えすぎず直感を頼りに歩み出すのは間違っていないと思います。

カルチャーショックを楽しめば学びにつながる

官僚時代には、憧れていた米国留学もかないました。世界中から留学生が集う場所でMBA取得に向けて切磋琢磨していたのですが、あるとき衝撃的な発言を聞きました。

ちょうど統計のテストがあった後でした。私が100点を取って満足していたら、クラスメイトが「俺のほうが点数が良い」と言ってきたのです。彼は私より低い点数でしたが、「俺は早くに問題を解いて退室した、お前は時間一杯使って解いた。時間当たりの生産性が高いのは俺だ」と。まさに衝撃でしたね。テストに時間当たりの生産性を求めるなんて屁理屈に思えますが、彼は真剣でした。自分では思いもよらない、まったく違う価値観を教えられました。

米国留学中は、日々こんなカルチャーショックを受けながら過ごしました。カルチャーショックの一つと言っても良いかもしれませんが、一緒に学んでいた多くの学生はすでに起業していたり起業を目指したりしており、私も大いに影響を受けて自分でビジネスを立ち上げたいと思うようになったのです。そこで帰国して官僚を辞めて、まずは生のビジネスに触れようとベンチャー企業に入社しました。

ここでも衝撃を受けたことは多かったです。官僚時代は周りの関係者を細かく当たって、とにかく細部を詰めていく仕事のスタイルでした。考え尽くして、根回しや準備を十分にして、一つひとつクリアしていく感覚です。

しかしベンチャー企業では、考え尽くしても当たらない、思ったように儲からないことばかり。精密さよりも挑戦、やってみてから修正していくことが必要とされました。

このように、人生のなかでは自分の常識が壊される経験が何度かあるはずです。びっくりし、受け入れられないこともあるかもしれませんが、大抵は自分の価値観や視野を広げてくれる良いきっかけになると思います。構えず、柔軟に、常識が壊れて新しい価値観が広がっていくのを楽しんでみてはどうでしょう。

常識が塗り替えられることでより柔軟に

縁は自分から求めよ

ベンチャー企業でビジネスの種を探しているうちに、インターネットを活用したeラーニングのビジネスがおもしろそうだと考えるようになりました。興味を持ってアンテナを立てて動いていたら一緒にやろうという人に出会い、満を持して現在の会社を起業しました。

江口さんのキャリア変遷

出会いは大切ですよね。いつ誰と出会うかで、人生を変えるくらいのインパクトがあると思います。良いタイミングで良い人に出会えるかは、運次第。ただし運を少しでも上向きにするには、自分から動くことが大事です。興味がある人、仲良くなりたい人、気になる人には、自分からアプローチするほうが良いでしょう。アンテナを立てて、良縁を呼び込むのです。

振り返ると、昔からちょっと変わった人と縁があったように思います。おもしろい考え方、趣味、生い立ちなど、一癖ある人ほど魅力的に思えて、付き合いを深めてきました。不思議な交流、良い出会いを連れてくるのは行動です。自分から出会いを求めて動き、人と向き合ってみましょう。きっとその先に、さらにおもしろい展開が待っていると思います。

まずはプロになる努力を

公務員、留学、ベンチャー、そして起業し経営者として、さまざまな形で働いてきました。昨今はワークライフバランスが重要視されていますが、若いときや新しいことを始めたときは、バランスにこだわらず全力投球しても良いのではないかと思います

どんなジャンルのどんな仕事であっても、一人前になるにはそれ相応の努力が必要です。とりあえずこなしているだけのアルバイトとは違います。だからまずは多少のハードワークを厭わず、プロになるための努力を重ねてほしいですね。将来のためにも、自分のキャリアのためにも、楽をしようとするべきではないと思います。

江口さんからのメッセージ

コスパだけを考えていても、大きな成長や成功はつかめません。少し損をしても前もって投資が必要な時期があるように、泥臭く努力を重ねて頑張らなければならない時期があると思います。「今は無理をしてでも、コスパが悪くても、がむしゃらにやろう」と思った先にだけ、手応えのある成長が待っています

AI時代だからこそ「人にしかできない判断」を

ライトワークス 代表取締役 江口 夏郎さん

がむしゃらにやることと同じくらい大切なのが、よく考えることです。AI(人工知能)が発展し普及すると、AIが出した答えを深掘りしたり判断したりすることが人間の役割になるのではないでしょうか。人として物事に対する深みや本質を見出すことが、大切になると思います

だからこそ、一つの物事を多面的かつ客観的に眺めて、じっくりと考えることができると良いですね。たとえばちょっとしたニュースや情報一つとっても、そこには何らかの意図があり、バイアスが存在します。そうした部分を加味しながら考えを深めていくことが重要です。

信用できる人から話を聞く、違う視点の本を読んでみるなど深く考えるためのコツはいくつもあります。ぜひ立ち止まって考えてみることを習慣化してください。

進むべきは心が動く方。熱源を見出せるキャリアを歩もう

直感や驚き、出会いに導かれて、自分でも思ってもみなかったようなキャリアを歩んできました。そこにあったのは、純粋な興味です。お金のためだけに職を変えたことは、これまで一度もありませんでした。

人生100年時代と言われる今、50年働くのが普通になってきたと感じます。コスパ、タイパ、損得だけでキャリアを作っていこうとすると、とても50年を走り切ることはできません。50年は長いですよ(笑)。

だから、興味の持てること、熱中できること、ワクワクすることを探してほしいです。寄り道や方向転換を重ねながら、いつも自分が心を動かされるほうへと歩んでいってほしいと思いますね。そして進んだ道を正解にできるように、努力を重ねていってください。皆さんの熱中できるキャリアを応援しています。

江口さんが贈るキャリア指針

取材・執筆:鈴木満優子

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