絶望は時に最高のギフトになる|積み重ねた人生のなかに「あるべき場所」を見つけよう

マークスライフ 常務取締役 笹尾 里枝さん

マークスライフ 常務取締役 笹尾 里枝さん

Rie Sasao・大学卒業後、スターツコーポレーションに入社。不動産業のおもしろさに目覚める。支店長、上海への海外駐在を経て、北京の大学に語学留学。その後、現地のフランス系の会社で法人営業責任者を務める。帰国後は不動産投資仲介業を経て、2019年よりマークスライフに入社、その後現職

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「やりたい」を塗り替えた思いもしない天職との出会い

学生時代は出版業界で働きたいと思っていたのですが、時は就職氷河期。就職先が決まってない人も多いなか、業界にこだわらず幅広く就職活動をおこなっていました。結果的に3つの会社から内定を頂くことができたのですが、最終的には出版社をグループ内に持つ不動産会社に入社を決めました。

内定後、「新卒は皆入社までに宅地建物取引士(宅建)を取得する」と会社の人に言われ、夏休みも必死で勉強して合格したのですが、入社してみると宅建を取得していた人はそこまで多くありませんでした。しかしその後の入社式では代表挨拶をさせてもらい、今振り返ってみると努力を評価してくれたのだと感じます

学生時代には不動産の売買などまるで遠い世界の話で、今まで考えたこともないような業種でしたが、仕事を始めるとそのおもしろさにどんどん魅了されていきました。間取りを見るのが楽しい、人と話すのが楽しい、生活や人生の一部にかかわるのが楽しい──。これは私の天職かもしれない、とすぐに感じました。

実は早い段階で人事の方から「出版の部署で仕事をしないか」という話もいただいていたのですが、せっかく宅建もとったし(笑)、不動産業をやってみようと思い辞退しました。

こだわりや熱い理想を持って仕事に臨むのは素晴らしいことです。でも、学生のうちに知っていることはほんのわずか。世の中には知らない世界、職業がたくさんあるものです。だから、何事も決めつけずに心を開いて向き合い、知らない世界や仕事にも飛び込んでみてはどうでしょうか

笹尾さんのキャリア変遷

逆算思考で最年少店長に

不動産業のおもしろさにハマり始めていた私は、入社後すぐに目標を決めました。「全社でトップの成績を取る」「最年少店長になる」「創業者に名前と顔を知ってもらう」という3つです

とにかく不動産仲介という仕事が楽しかったので、成績はぐんぐん伸びていき、入社3年が経つ頃には半期で全社トップをとるところまでたどり着きました。知り尽くしたエリア・物件でおもしろいほど契約が取れるようになり、1番目の目標に手が届くところまで来たのです。

しかし、2番目の目標である最年少店長を見すえると、このままでは圧倒的に経験が不足していると感じるようになりました。知らない場所、物件、さまざまな業態やサービスなど、もっと深く知って経験しなければ店長になったとしてもお客様の役に立てないのではないか。そう考えていました。

そこで、このまま順調にいけば全社トップを取れるというタイミングで、店を異動したいと申し出ました。周りもびっくりしたと思いますし、我ながら大胆なことをしたと感じます。でも、次の目標をかなえ、さらにその先の成長も見すえると、このタイミングで環境を変えるべきだと考えての決断でした

目標からの逆算で次の行動を決める

結果、年間の全社トップは取れず2位だったのですが、その後、最年少店長になることはできました。25歳で店長になったばかりの私の店舗には、ほとんど歳も変わらない新卒が2名配属されて、プレイングマネージャーとして毎日ヘトヘト。でも、このハードな毎日のおかげで、実際に過ごした時間の倍以上の経験を積めたと思います。

短期間で濃い経験ができたのは、目標を設定し、それをもとに逆算して行動できたから。「ここまでにこうなっていたい」と考えれば、今やるべきことや優先順位が見えてきますよね。長い人生のキャリアから、1年単位の目標、今週のタスクを導き出していく。目標と逆算を組み合わせれば、今がもっと充実したものになると思いますよ。

願望は語ってなんぼ

その後、学生時代に中国語を勉強していた縁もあり、海外駐在に。上海での海外勤務の機会を得ました。さらに結婚を機に一時退職し、北京の大学にも通いました。ライフプランやさまざまな状況などを鑑みて自分の意思で仕事を離れましたが、やはり何かやりたいなあと思い、そんな思いを中国の友達に打ち明けていたのです。すると友人が、中国語が話せる人材を探しているフランスの会社を紹介してくれました。

当時は英語やフランス語なんてまるで話せませんでしたが、ここぞとばかりに面接を受けにいき、結果的にその会社で働くことになりました。自分でもびっくりするような行動力ですが、特に深い考えがあったわけではありません。チャンスがきたら「ちょっとやってみようかな」と動いてしまう性分なのです。

もちろんうまくいく保証なんてありません。でも、これから起こるかどうかもわからないことを考え、先回りして不安になってもしょうがないですよね。まずはチャンスをつかむこと、引き寄せることに集中し、そのチャンスを逃さないほうが重要だと思います。私も「中国で働いてみたい」と口に出したからこそ、縁が巡ってきました。

口に出して思いを広げてチャンスに変える

願望や思いは、言葉にしたほうが良いと思います。自分の思いを明確にするためにも、まずは言葉に出してみる、誰かに伝えてみることから、実現の一歩が始まります。

ネガティブな経験をギフトにしよう

マークスライフ 常務取締役 笹尾 里枝さん

その後、子どもの出産でその仕事も離れたのですが、今度は移住したタイで子宮体がんを発症してしまいました。自分の体や命のことを思うと不安になりましたし、子どもに兄弟を作ってあげることも考えていたので、その道が絶たれとてもショックでしたね。自分のこれまでの生活を振り返って、何が悪かったのか考えたり、責めたりもしました。

そんな悲しみのなかでふと、子どもの頃会った女性のことを思い出したのです。彼女は私の友人の母親で、がんから回復したサバイバーでした。口癖のように「がんがあったから、私はこの子しか産まなかった、だからその分全力で愛している」と、誇らしげに語っていた姿が頭に浮かびました。

突然ではありましたが、彼女と話したいと思い、友人づてに連絡をして会いにいきました。十数年ぶりの再会にもかかわらず、彼女は私を覚えていてくれて、開口一番「やったじゃない。これからあること全部、がんのせいにできる」と笑ってくれました。

おもしろい考え方だなあと思いましたね。実際に病気があったからこそ乗り越えようと思えたり、病気のおかげで価値観が変わったり、見方が広がったり、病気をきっかけにつながる縁があったり──振り返ると、がんに罹患したことで得られたことは思った以上に大きく、ネガティブな経験はプラスを生み出す種になるかもしれないと、今では思えます。

人生を歩んでいくなかでは誰しも、絶望や超えられない壁に向き合わなければならないときもあるでしょう。そんなときほど「ネガティブがいつかギフトになる」と信じて乗り越えてほしいです。きっと悪いことほど、のちのち良いきっかけを運んでくれます

笹尾さんからのメッセージ

その後日本に戻り、もう一度キャリアを構築するためにこれまでの経験の棚卸しをしました。自分がやってきたこと、強み、弱み、価値観のすべてを洗い出していったのです。すると私はやはり不動産が好きで、中国語の強みも活かしながらキャリアを積み上げていきたいのだと明確になりました。

皆さんもこれまで生きてきた積み重ねがあるはずです。小さなことでかまわないので、定期的に掘り起こしてみてほしいですね。

積み上げた人生を掘り返し「自分だけの価値」を見つけよう

他者との比較や客観的なデータは不要です。「当番を真面目にやりきった」「家族に感謝された」「出来上がってうれしかった」など、本当にちょっとした思い出や気づきを振り返って、なぜうれしかったのか、どこを褒められたのか、なぜそれが自慢なのかを考えてみてください。自分では気づいていなかった、自分の良さ、強み、価値観が見えてくると思います。

実は私は自己肯定感が低く、「自分なんて」と思うことばかりです。それでも今まで積み重ねてきたものを振り返れば、そこには特別な価値があると気づくことができました。皆さんにもぜひこれまでを振り返ることからキャリアの旅をスタートさせ、その先にライフプランやウィッシュリストを作ってみてほしいです。

受け身を卒業し自分の足で一歩を踏み出そう

日本に帰ってからはご縁があって現在の会社に参画し、今は人材採用や育成に携わっています。

そのようななかで、若い世代の方と話しているともったいないと思うこともあります。たとえば、以前採用面接の際に「御社しか受ける予定はありません」と言う人がいました。リップサービスもあったのかもしれませんが、「いや、他社とかほかの業界も見て!」とアドバイスしてしまいました。

どんな経験も、やらないよりやったほうが良いと思います。さまざまな会社を見てみる、いくつか採用試験を受けてみる、合格・不合格を経験してみる。そういった体験を通して、考え方が変わるかもしれません 採用試験の話だけではなく、どんなことも経験になると思えば、受け身の人生から抜け出せるのではないでしょうか。

私は学生時代に留学してみたり、資格を取ってみたり、アルバイトをしたり、自分の体で経験を重ねました。そして社会に出てから転職や闘病を経て、今自分のキャリアがあるべき場所にたどり着いたという実感があります。なんでも経験し、自分の足で歩むことで、アイデンティティが形作られてきました。皆さんも一刻も早く自分の足で動き出して、ぜひ自分にしかできない経験を重ねていってください。

笹尾さんが贈るキャリア指針

取材・執筆:鈴木満優子

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