内から溢れる強い思いこそがキャリアの機動力|「人」の力で理想を実現し続けよう

大西 取締役 兼 人事部長 高橋 義典さん

大西 取締役 兼 人事部長 高橋 義典さん

Yoshinori Takahashi・2004年に新卒で大西衣料(現・大西)に入社。商品部でバイヤーを経験後、人事企画、財務経理、東京での新規事業マネジメントと幅広く経験を積む。2015年に再び大阪本社に戻り、おもに人材開発に従事。2022年より取締役に就任し、以降現職

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「大きいことがしたい」。漠然とした希望から始まったキャリア

学生時代を振り返れば、学業以外のことに熱を注ぐ日々でした。軽音サークルと剣道同好会の掛け持ちをしつつ、アルバイトに明け暮れる毎日を過ごしていたので、就活についても深く考える時間をあまり持てていなかったですね。

ただこの4年間に得たものは確実にあり、特にアルバイトでは本当に多くのことを学びました。接客のスキル、調理場という慌ただしいなかでの身の振り方、時に理不尽な状況をも受け入れる経験──。それらがすべて、今の自分の中に生きています。仲間にも恵まれていて、良いコミュニティを築けていました。

とはいえ就活はしなければならず、就職先を考えるにあたって将来について真剣に考えるようになりました。当時は就職氷河期で、基本的に選り好みはできません。そのような厳しい状況にありながら、自分は「大きいことがしたい」という漠然とした軸を胸に就活に臨んでいました。

今考えればあまりにも漠然としていますが、そのときの私は「どうせ社会に出るなら、何か大きいことがしたい!」と本気で思っていたのです。何社からも不採用通知を受け取りましたが、そのなかで手にしたのが当社、大西衣料の内定でした。

最初に興味を持ったのは、バイヤーの仕事です。取引額が大きく、2~3年目の時点で大きな裁量権を得られる環境でした。億単位の金額が動くような仕事を、早い段階で任せてもらえる。そんな「大きい仕事」に憧れを持ち、入社後3年ほどはバイヤーに熱を注いでいました。

時期によって扱う商材が変わるので、1年を通して学びがあります。その学びを次の年にどう活かすかで売り上げが変わる仕事でした。「来年はこうしよう」「ここを改善していこう」そんなことを考えてバイヤーの仕事が本格的に楽しくなってきていた頃、突然社長からの呼び出しがかかります。

自分が何かしただろうかと身構えながら社長と対峙した時、告げられたのは「人事に異動してくれ」という想像もしなかった一言

これが私のキャリアのなかでの大きなターニングポイントになりました。

高橋さんのキャリア変遷

現場から本部へ。ゼロベースでプロジェクトを進める経験が財産に

私が人事部に異動したのは15年以上も前のこと。当時は人事部のある本部側と現場の関係性は、あまり良いものとは言えませんでした。現場にいる人間から見れば、本部というのは融通の利かない「お役所」のように映っており、私自身もどこかそのように感じていました

しかしいざそこへ踏み入ってみると、少しずつ人事が何をしているのかが見えるようになってきました。

当時は何の知識もなかったので、一から勉強をする毎日です。書籍から学ぶのはもちろん、現場でほかの人がする仕事を見て学べることも無限にあります。労務の人が社内のいざこざを水面下で鎮めていたり、従業員一人ひとりのことを考えた制度を練られていたりと、見えないところでとても大切な仕事をしているのだと、そのとき初めて理解しました。

自分が配属されたのは人事企画で、グループ全体の人事制度を一から作り直すプロジェクトを始動するにあたって、若手が欲しいということでの抜擢だったようです。

まっさらな状態からの企画立案に始まり、たくさんの議論を重ねるなかで、着実に人事制度を作り上げていきました。こういった経験は誰もができるものではありませんし、振り返ってみれば得難い貴重な時間でしたね。

ハレーションを乗り越えた数年越しの社内改革

大西 取締役 兼 人事部長 高橋 義典さん

人事の仕事に対する理解が深まったとは言え、人事制度そのものの改革というのは簡単ではありません。現場と本部の相互理解もあまりない状態で人事が大きな改革をしようと思えば、当然反発の声も上がります。それでも私たちとしては、多くの時間を投じて練りに練った改革案だったので、曲げてはいけないという強い思いがありました。

そして何よりも自分の思いを強固にしたのは「人」です

バイヤーとして現場の仕事を体験してきたからこそ、彼らがどんなに努力をし、どんな思いですんなりとは受け入れられないのかはよく理解していました。皆一様に現場を思い、仲間を思い、会社のことを思って声を上げている。それは痛いほどに感じていたのです。

しかし、人事部も同様に強く会社のことを思っていて、そこで働く人のことを思っている。「会社を良くしたい」という思いは共通しているはずなのに、互いに反発し合っている状況がすごくもったいないと感じていました。私にとってこれまでかかわってきた人全員が大切で、大好きな人たちでしたから、なおのことですね。

結果として、改革が実現したのはそれから2~3年も経ってからのこと。長い月日はかかりましたが、地道な浸透施策を重ねていって、今の人事制度があります。

高橋さんからのメッセージ

長いキャリアを積むなかで、つらいことはたくさんあるでしょう。そんなときにこそ、「この経験は必ず役に立つ」と心に留めていてください。それさえあれば、長いキャリアを納得のいく形で歩んでいけるはずです。

AI時代は「人」なしに越えられない。人への思いからつながるキャリアを

仕事をするなかで強く感じるのは、「自分は人に恵まれている」ということです。人に救われた局面は一つや二つでなく、信じられる相手がいたからこそ今の自分があると思います。だからこそ人を大切にしてきた自負がありますし、これからもそうしたいと思っていますね。

また、この考えは私だけでなく会社そのものの思いでもあります。当社は中間流通がメイン事業です。何か大きな資産があるわけでもなく、特別な製造技術を保有しているわけでもありません。だからこそ、つなぐのは「人」。社長自身が「一番大切なのは人だ」という考えを持っており、人とのかかわり方も大切にしています。

大西が「人」を大切にする理由

この「人を大切にする」という考え方は、当社だけでなくすべての会社に共通しているべき理念ですし、AI(人工知能)時代と言われる現代にこそ必要な考え方だと思っています。

多くの仕事がAIに代替されると言われるなかで、人がかかわらなければ成立しない領域と言えばコミュニケーションや感情に触れる部分なのではないでしょうか。AIにも技術にも補うことのできない、人同士のかかわりだからこそ大切にしていかなければならないと考えています

そしてこれからの時代に必要とされるのも、人を大切にできる人材ではないでしょうか。相手の立場に立ち、同じ目線でかかわれる人が、これからの時代にますます活躍していく人材となるはずです。

学びの極意は「良いとこ取り」にあり

「人を大切にする」ということをお話ししてきましたが、そのなかで特に私が意識的に実践してきたのが「人の良いところを見つける」ということです。この重要さに気がついたのは、大西で勤め始めて2年が経ってからのこと。当時の部長から教わりました。

そのときはまだバイヤーとしてキャリアを積んでいる最中。まだまだ周囲から学ぶことが多い新人時代でした。周りには個性的な先輩が多くいるなかで、なかには「少し協調性に欠けるかも……」と感じる先輩もいたのです。当時は反面教師にしよう、くらいにしか思っていなかったのですが、部長と飲みに行ったときにこんなことを言われました。

「高橋、この会社にはいろんな先輩バイヤーがいるけど、皆全然違うだろ。あの先輩は協調性がないけど、周りとは段違いに仕事が早いよな。お前はいろんな先輩の良いところだけを盗んでいけ。そうやって少しずつ盗んでいったら、そのうちお前のオリジナルになる」

この考え方は自分にはなかったもので、当時は視点が大きく変わる思いだったのを今でも覚えています。どこか一点において「困った人だな」と思ったとしても、何かしらの良いところは誰しも持っているもの。そういう自分が真似すべき部分を探して技術を盗み、良いとこ取りをしていくことで、唯一無二の人材になっていくのだということを学びました

「良いとこ取り」で輝ける人材になろう

皆さんもこれから多くの人とかかわりながら社会で生きていくことになるかと思いますが、ぜひかかわる人すべてを「何か学べるものはないか」という気持ちで見てみてほしいと思います。良い部分を積極的に見つけて、自分のものにしましょう。人は誰しも学ぶべき一面を持っているはずです。

そしてそこに正しく価値を見出し、積極的に真似をして自分のものにしてください。良いとこ取りをしていくなかで、少しずつ唯一無二の「価値ある人材」となっていくことができると思いますよ。

目的をかなえるのは「思い」の強さ

これまで歩いてきたキャリアを振り返ってみて、今この場所に立てているのは、周囲の人のおかげであることはもちろん、自分自身に「強い思い」があったからだと思います。

皆さんにも、キャリアを考える際にはぜひ「強い思いを持ってかなえたいことは何か」を探ってみてほしいですね。私の経験から言うなら、多少漠然としていてもかまいません。本気で、胸を張って言える夢を見つけてください。その一つさえあれば、振り返ったときに「良い人生だったな」と思える道を進んでいけるはずです。

就活で得られるものは、就職先だけではありません。本当の意味で得られるのは「自分と向き合う時間」だと思っています。自分と本気で向き合い、何がしたいのか、何を求めているのかを、逃げずに見つめ続ける時間が就活です。

「どこか違うな」「やっぱり自分には合わなかったかも」そう思いながら、人生のうちの長い時間を費やすのはもったいないことです。心の底から「この会社に入って良かった」と思える場所を探したいのなら、心の底から譲れないと思えることをぜひ見つけてください

そして人を大切にし、支え、支えられながら納得のいくキャリアを歩んでほしいですね。皆さんが「ここに居たい」と思える場所で、自分らしく輝けることを願っています。

高橋さんが贈るキャリア指針

取材・執筆:瀧ヶ平史織

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