「出会い」はキャリアを紡ぐ架け橋|偶然を逃さないことが未来を築く第一歩
東都観光バス 取締役 井置 紳也さん
Shinya Ioki・兵庫県姫路市生まれ。小学校から卓球に打ち込み、当時卓球での実績がトップクラスだった早稲田大学に進学。その後、大学在学中から運営していたクラブチームで卓球の指導をメインに活動。2010年にケアリッツ・アンド・パートナーズに入社し、エリアマネージャー、施設事業部長、ブロックマネージャーを歴任。2024年4月に東都観光バス取締役に就任
偶然の出会いからスタートしたキャリア
中学から卓球に打ち込んでいて、ファーストキャリアは卓球を教えることにかかわる仕事をしながら生計を立てていたため、ビジネスパーソンとしてのキャリアは29歳からスタートしました。
大学は東京への憧れと当時卓球の実績がトップクラスであったことが決め手となり、早稲田大学に入学。結局大学は中退してしまったのですが、大学在学中から友人と運営していた卓球のクラブチームでそのまま働き、生徒に卓球を教えたりしながら日々を過ごしていました。今は楽しく働けていますし、これまでの選択について後悔はしていませんが、大学中退して両親を泣かせてしまったのは申し訳なかったと感じています。
卓球のクラブチームを運営していた29歳のときに、当社(東都観光バス)の現社長であり、大学時代から交流のあった宮本と卓球の試合で偶然再会したことで、私のキャリアはスタートしました。これが1つ目のターニングポイントですね。
当時宮本は、ケアリッツ・アンド・パートナーズを立ち上げてから3年目を迎えたタイミングでした。宮本から「介護の会社を立ち上げたのだけど、人手が足りないので興味があったら一度話を聞いてみないか」と声を掛けてもらったことで、ビジネスの領域にふみ込むこととなったのです。このときは卓球教室の後だったため、ジャージ姿で会社にお邪魔したことを今でも鮮明に覚えています(笑)。
宮本と再会したのは30歳も間近で「このまま身体が資本である卓球の指導をいつまで続けられるのか」と、将来に少し不安を抱いていたタイミングでした。卓球以外にやりたいことはなかったのですが、何よりも宮本の話を聞いて「この人に付いていきたい」と強く思ったのが、ケアリッツ・アンド・パートナーズに入社することを決めた最大の理由です。当時はまだ小さな会社だったにもかかわらず、宮本は「介護業界でナンバーワンになる」と堂々と大きな目標を掲げていました。そのカリスマ性と自分の考えをストレートに宣言できる人柄に惹かれましたね。
実際に会社の内側から業界ナンバーワンになる過程を見れるワクワク感も入社の動機になりました。このようにして、さまざまな要素とタイミングが「偶然」重なって、私のビジネスパーソンとしてのキャリアが始まったのです。
管理職へのステップアップが仕事のやりがいを見出すきっかけに
ケアリッツ・アンド・パートナーズに入社を決めたときは、今後のキャリアについてはあまり深く考えていませんでした。介護業界にも特段良いイメージも悪いイメージもあったわけではなく、ただ宮本のそばで働きたい思いと、業界ナンバーワンを目指すことを目標に働いていたように思います。
当時は創業期で人員が少なかったこともあり、会社では人事労務・経理業務を中心にサポートしていたのですが、急遽管理職だった方が退職になり、宮本から「管理職をやってみないか?」と打診されました。管理職は忙しいイメージがあったため「自分にできるのか」と不安だったのですが、候補者が見つからず最終的に私がやることになったのです。
今思い返すと、ここが2つ目のターニングポイントだったと思います。管理職という立場を任されたことで自分の意識が明確に変わりました。これもまた偶然が重なったことが大きいと思います。今までは自分の仕事が会社全体にどのように影響を及ぼしているのかを深く考えたことがなかったのですが、管理職になって視点が大きく変わりました。会社全体の仕組みを理解できたことで自分の仕事と会社の売上とのつながりがわかるようになり、自分が頑張った成果が目に見えて給与にも跳ね返ってくることを実感したのです。仕事に楽しさとやりがいを見出せた瞬間でしたね。
ときに「出会い」は興味を凌駕する。出来事へのアンテナを広げておこう
これまでのキャリアを振り返ってみると、どのキャリア選択にも宮本が関係しています。ケアリッツ・アンド・パートナーズに入社したときもそうですが、2024年4月に東都観光バスに入社したのも、宮本から声を掛けられたからです。介護業界もバス業界も、自分にとってはどちらも特に興味のある業界ではありませんでした。でも、これらの業界に飛び込んでみた結果、仕事へのやりがいを見つけて今も日々楽しく過ごせています。振り返ってみると、私にとっては宮本との出会いが自分の人生を切り開くポイントでした。
卓球業界にいた頃から、新しい出会いを求めてさまざまな人とかかわるように意識していたことも大きい気がします。就職活動でも出会いを増やせば、自分が宮本と出会ったように良い人に巡りあうかもしれません。偶然の出会いはかけがえのないものだといえますね。
ただ、一般的には私のような出会いはあまりないことも事実だと思います。だからこそ、出会いを意識すると同時に、日々を過ごすなかで「何か自分の琴線に触れる出来事はないか」と、常にアンテナを張っておくことが重要だと思いますね。自分の「直感」を大事に、周りを見渡しながら生活するとことをぜひ意識してみてください。
最後は「直感」が決め手。自分にしかできない判断が未来を築くきっかけになる
就職活動を進めるなかで、どうやって就職先や仕事を選択すれば良いか悩む学生の方もいるかもしれません。私はこれといった就職活動はしていませんが、採用に長くかかわり就活生とも話してきたなかで思うのは、やはり自分のキャリア選択において「直感」が重要になるということです。
私自身、仕事でなにかを決断するときは直感を大切にしています。管理職になったタイミングでは、意思決定をする機会も増えました。昔から優柔不断な人間だという自覚があったのですが、宮本から「後々考えることはあるけれど、最初に直感で思ったことが本質からズレていることはあまりない。直感を大事にするように」と言われ、それ以降直感も大切にしながら決断スピードを早めることも意識しています。もちろん慎重に決断することも大事なことですが、「早く決断して早く修正する」意識を持つことで物事は前に進むと実感したので、早く決断したうえでその決断に責任を持つことを心掛けていますね。
特に志望企業を見極めるうえでは、自分の「直感」で判断できるような企業の要素を見てみてください。たとえば、会社説明会の雰囲気やそこでの社員同士の雑談の様子、企業の方向性を決めている役員の人柄などは大きな判断要素になると思います。ネットの情報や面接だけではわからないその企業の本質的な部分が現れやすく、自分に合っているか判断しやすくなるでしょう。ちなみに、当社の社長である宮本は、突然説明会の会場に入り学生に声を掛けたりします。学生も企業も、形式的な場ではないときに本来の姿が見れることが多いので、ここを見極めるのは重要だと思いますね。
こういった要素を総合的に見て自分の「直感」に従ってみると、ミスマッチが起きづらいと思います。ただし、ファーストキャリアは人生に一度きりの重要な選択なので、より慎重な判断をする必要があります。だからこそ、時間がある限りできるだけ多くの企業を見てみることも大切だと思いますね。私の場合は宮本という人物に惹かれたので、ほかの企業をあまり見ずに入社を決めましたが、思い返すともう少しほかの業界も見ていれば良かったかもしれないとも思っています。
「作業」ではなくて「仕事」ができる人材を目指そう
就職活動では自分が就職先を選ぶ意識を持つことも重要ですが、それと同じくらい企業がどのような人材を求めているのかを知っておくことも重要です。私個人の意見ですが、今の時代に求められているのは、「作業」ではなくて「仕事」ができる人材かどうか、ということだと考えています。
仕事ができる人は、当事者意識を持って「なぜそのようなやり方をしているのか」「もう少し効率の良いやり方はないか」などと、自ら考えることができます。そして、必要に応じて業務の取り組み方や内容を変えていける。物事を主体的に変えていく力は会社全体が成長していくことに直結するため、人材として重宝されます。
実際に、私たちが採用時に見極めているのは「自分の考えをもって話せているか」どうかです。たとえきれいに作られた文章だとしても、自分で考えたすえの意志や主張がないと、熱量に欠けているとわかります。我々としても、自分のことをよく考えられていない人や、物事について当事者意識を持っていない人は、当社に入社して活躍できるのか少し不安になるので、この点は大事だと思いますね。
当社は2024年で60周年を迎えたということもあり、古い制度がまだ残っています。この状況を受け、改善のための試みとして「業務改善提案」を社員から募集したりと、社員一人ひとりからの自分なりの意見を聞くことにかなり力を入れています。当社以外でも「当事者意識をもって仕事ができるか」を重要視する企業は多いと思うので、ぜひ意識してみてください。
失敗したって大丈夫。趣味も仕事も全力で取り組むことが「信頼」を強固にする
最後に学生の皆さんに伝えたいのは「失敗を恐れず全力で挑戦してほしい」ということです。仕事や趣味、そのほか何事においても一生懸命に全力で取り組む姿勢はとても好感が持てますし、周囲も応援したくなります。
何より、全力でやると毎日が楽しくなります。私は今も趣味として卓球に全力で取り組んでいますし、仕事にも全力です。だからこそ、今は日々がとても楽しく充実しています。
そうはいっても、就職し仕事をしていくと失敗することもあるかもしれないと不安に思うこともあるでしょう。ただ覚えておいてほしいのは、失敗しても大丈夫だということ。そのためにフォローする上司がいます。就職活動においても、失敗するのが怖いと感じて足がすくむこともあるかもしれませんが、その期間での失敗は人生においては大したことではありません。
今就活している学生の皆さんには、失敗を恐れずに何事にも全力でぶつかり、ときに周りの人を頼りながら、自分の人生を切り開いていってほしいと思います。
取材・執筆:平野佑樹