人生にテーマを持て|キャリアを誰よりも輝かせるのは「あと1%の努力」

チロルチョコ 代表取締役社長 松尾 裕二さん
Yuji Matsuo・同族経営でチロルチョコを運営する家系に育ち、小学生の頃から社長業に就くことを意識しながらも、大学生の頃まで趣味に熱中。就活の際に「企業経営に役立つ経験を積みたい」という目的から、新卒でコンサルティング会社に就職。2年間勤務した後、チロルチョコに入社。6年間実務経験を積んだ後、父親の後を継いで取締役社長に就任、以降現職
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「社長」という未来にとらわれず過ごした青春時代
小学生の頃から、ぼんやりとした将来像が常にありました。それは「社長」という自分の姿です。経営者の親を持ち、長男という立場である。そうなれば、自分が会社を継ぐのは自然な流れだろうと幼いながらに理解していたのだと思います。
とは言っても「社長になるために勉強しよう!」といった意識があるわけでもなく、親から社長になるよう言われたこともなかったので、青春時代は趣味に没頭していましたね。サッカーにストリートダンスと、自分の好きなことに意欲を傾け続けていました。特にストリートダンスには大学時代を捧げたと言っても過言ではなく、数百人規模のサークルで副会長として活動をしていました。
今振り返ってみれば、集団のスポーツに取り組んだり大きなサークルをまとめる経験をしたことで、大人数のコミュニティ内での立ち回りを学ぶことにつながったと思います。そういった点で、多くの社員をまとめ上げる社長職の役に立っていたのかもしれません。
しかしそれも結果論であり、学生時代に社長という将来について意識をしたことはほとんどありませんでした。
受けた面接の数=希望実現への布石
社長への意識がやっと芽生えたのは、就活をするというタイミングになってから。いずれは社長になるのだと考え「そろそろ気持ちを切り替えていかなければ」と感じ、就活の軸を「父の会社に入ったときに活きる経験ができる環境」にすえて就活をスタートしました。就職先には公認会計士の事務所や税理士事務所、コンサルティング会社などを考えていましたが、そのほかにも何十社もの選考を受けていましたね。
目的は一つ。希望を実現させるための布石を打つことです。
就活のスタイルは人それぞれで、私のように多数の企業にチャレンジする人もいれば、本当に行きたい企業を絞って選考を受ける人もいますよね。就活をするうえではどちらの方法も間違いではありませんが、社長として採用をする立場になってみると、いろいろな企業での面接の経験のある人とそうでない人には大きな差があるように感じます。
数々の企業の選考を受けてみれば、面接で聞かれることの半分はどの企業も同じであることがわかります。であれば、面接の経験を積むことで少なくとも50%くらいは自信を持った受け答えができるようになるはずです。

「ここに入社したい」という希望を持って就活をするなら、複数の企業の選考を受けて経験値を積んでおくことも必要だと思います。とはいえ手当たり次第に選考を受けて回るのではなく、ある程度の興味が持てたり、「良いな」と思える要素がある企業を受けるということは念頭に置いておきましょう。
結果として、学生時代の私は希望の企業からの内定を手に入れることができました。皆さんも就活を制すうえでは、「経験値を積む」という観点で選考を受ける企業を探してみるのも戦略の一つだと思います。
想像力は何にも代えがたい武器。人をとことん思いやる力を磨こう
志望企業への入社を果たしましたが、配属された部署は自分の希望とは違ったところでした。できれば経営について学べるような環境に身を置きたかったのですが、コンサルティング会社と言えば税理士や会計士を目指し、これまで勉強をしてきた人たちが集う場所です。学生時代からすでにいくつかの資格を取得しているような同期に囲まれるなか、私はそういったスキルや知識はほとんど持っていませんでした。そうなると当然、任される仕事もごく限られたものになっていきます。
それでも1年は自分の仕事をやりきったのですが、2年目になっても「社長」というビジョンに結びつくような学びが得られるイメージがわかず、ライフステージの変化もきっかけとなって父が経営するチロルチョコへの転職を決め、そこで社長となるための知識を身に付けることから始めることにしました。

1社目で過ごした時間は長くはありませんでしたが、そこでの経験が無駄だったとは少しも思っていません。社会人として、人としてあるべき姿を学べたという点で、ここでの経験は今の自分にも活きています。
チロルチョコでの私は、どんなに経験が浅くても「社長の息子」として扱われます。そうなると、どうしても叱られることがなくなってしまうのです。その点1社目の企業には私を力強く叱ってくれる上司がおり、そのような人たちのなかで社会人としての基礎や、上司と関係構築をするための処世術を学ぶことができました。
なかでも一番の学びだったのは、「デキる人には想像力がある」ということです。もっとわかりやすく言うなら、相手を思いやって先回りした行動をする力ですね。
たとえば1通のメールを送るにしても、相手がメールを開いた瞬間に何を見て、どのように読み進めて、どのような情報が必要になるかを考えることが想像力です。締め切りの日に色を付けておくこと、長文のメールは重要な部分を太字にすること、必要な資料を適切な位置に前もって添付しておくこと──。メールを受け取った相手のことを想像し、こういった行動を当たり前にできる人は、得てしてどのような仕事もそつなくこなせる、いわゆる「デキる人」でしたね。
想像力を働かせた仕事が社会人になったときに当たり前にできると、一目置かれやすいのはもちろん「この人になら仕事を任せられる」という信頼を生みます。結果として、自分が活躍する機会が増えることにつながるでしょう。

そのためには学生のうちから想像力を鍛えておくのがおすすめです。アルバイトやサークル活動、ゼミなど、どのようなときでも人とコミュニケーションを取るときは想像力を働かせる意識をしてみてください。
大切なのは、相手の立場に立って、どうすれば相手が喜ぶか、ちょっとした手間を減らせるかを徹底的に考えることです。その考え方が習慣化することで、仕事にも落とし込みやすくなりますよ。
文句や不満はエンジンになる。「他責」ではなく「自責」からアクションを起こそう
入社後に活躍できる人材という観点で考えると、物事を自責的に捉えられる視点も大切です。何か気持ちが落ち込むようなことがあったときに「〇〇のせいで」と考えるのではなく、これまで自分がしてきたことの結果が反映されているのだと受け止める姿勢ですね。
私自身も、この「自責」は常々意識しています。たとえばチロルチョコでは年に一度、匿名で社員の声を募集するアンケートを実施しており、多くの意見が寄せられます。なかにはネガティブな意見をもらうこともありますが、「これは今まで自分がしてきた企業運営の結果なんだ」と自責に立ち戻るようにしています。「なぜわかってくれないのだろう」という気持ちも一瞬は浮かぶのですが、それは結果として物事を他責的にとらえているということなんですよね。
自分に悪いところがあるなら、それを直そうと思うはず。結果として不満に終始せず「社員の不満をなくすには、より会社を良くするにはどうすれば良いだろうか」と次のアクションへ向けて思考を切り替えることができるのです。

皆さんも、社会に出て働き始めれば不満を抱えることもあるでしょう。それは誰しもあることで、仕方のないことだと思います。
大切なのは、文句や不満をエネルギーに変えること。不満を解消するにはどうするかという思考に結び付け、悶々と抱えている思いをエンジンに、今置かれている状況を良くするために必要な方法やアクションを考えてみると良いでしょう。
自分にとっての「幸せ」を追求した先に人生のテーマを定めよう

これからのキャリアを充実させていきたいと思うなら、自分なりの「テーマ」を持っておくのがおすすめです。テーマを持っていると、自分が向かうべき方向性が明確になります。充実した人生を送るための意思決定の指標にもなるので、決断に迷わなくなるのです。
この「自分なりのテーマ」を見つけるためには、「どんな人生に幸せを感じるか」をしっかりと考える必要があります。仕事に限らず、プライベートのことでも良いので、あなたが「幸せ」を感じる状態について考えてみてください。それを手に入れるために必要なものを明確にすることで、自然とテーマが見えてきます。
大学生、特に就活生の場合は、良い企業に入社する、自分の好きなことを仕事にするなど、当面のテーマは就職に関することになると思います。社会人として就職をするというのは、人生のなかでも非常に大きな出来事の一つです。その第一歩をふみ出す舞台としてどのような企業を選ぶかは、やはり慎重に考えるべきだと思いますね。
何をしたいか、何を得たいかだけでなく、もっと広く大きな視点で人生を見る。どのような生き方がしたいかまで視野を広げて考えてみれば、自分にとってベストな就職先は自ずと見えてくるはずです。
希望をかなえるのは+1%の努力
キャリアや人生のテーマを掲げたとして、それをいち早くかなえるためには毎日の「101%の努力」が必要だと思っています。「101%」というと全力以上の力を発揮しなければならないように聞こえるかもしれませんが、そういうことではありません。「昨日よりも+1%頑張る」ということです。毎日の努力を100%として、それを1%ずつ、着実に超えていくという意識をしてください。
101%の努力を達成するのに欠かせないのは、目標を立てること。たとえば第一志望の企業への入社をテーマとするなら、それを達成するためにやるべきことを毎日一つ決めてください。それを確実にこなす日々を積み重ねていくことで、「今日の自分」が「昨日の自分」よりも少しだけステップアップした状態になっていくはずです。そのように、今日の100%の自分にほんの1%プラスするだけ、ということを地道に繰り返していきましょう。
私自身もそのようにして101%の努力を積み重ねてきていますが、人生全体で見れば目標の達成度はまだまだ10~20%程度です。これが100%になるのは、自分が引退した後なのだろうと思います。社長業を引退する頃にチロルチョコがどのような評価をされているか、世間にどの程度の価値を提供できているかを俯瞰したときに、初めて目標に対する真の達成度がわかるのだと考えています。
これから社会に出る人は、何十年もかけた長いキャリアを歩んでいくことになります。そのなかで人生のテーマを定め、目標を決め、達成することを積み重ねていくわけですが、本当の意味で目標達成率が100%になるのはリタイア後のこととなるでしょう。
そのときが来るまで、自分の状況やライフステージに合わせてテーマを更新しながら、着実に足跡を残していくことが大切です。大きなゴールを見すえて、そのために今日何をすべきかを考え続けてください。
皆さんがこの先社会で大きな活躍を果たし、いつか自分の足跡を振り返ってみたときに、人生における大きな目標が間違いなく達成できていると感じられる形であることを願っています。

取材・執筆:瀧ヶ平史織