人気企業の内定をもらったら要注意!?|二度の就活から見えてきた「チャンスはピンチ・ピンチはチャンス」の法則

レイ法律事務所 パートナー弁護士(共同経営者) 髙橋 知典さん

レイ法律事務所 パートナー弁護士(共同経営者) 髙橋 知典さん

Tomonori Takahashi・明治大学法学部法律学科卒業、中央大学法科大学院卒業。2013年に司法試験に合格後、障害のある児童向けの学童サービスでのアルバイト期間を経て、レイ法律事務所に入所。以降、子どもにかかわる事件全般、いじめ、退学、体罰、学校内での事故等の学校問題、離婚等の夫婦関係の問題まで幅広く事件に対応。 士業の傍ら、東京こども専門学校で講師を務めた時期も。TV等へのメディア出演や漫画・書籍の法律監修も積極的に引き受けている

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高2で見つけた人生の目標。かなえた先に待っていたのは大きな試練

キャリアについて初めて考えたのは、高校2年生の頃。家族や親戚の多くは建設系の仕事をしており、大卒の学歴を持った人はほぼ周りにいない環境で育ちました。電気工事士として働く父に憧れていたので、自分もそういった道に進むのだろうとぼんやり思っていたのですが、ふと「自分にしかできない仕事が何かあるのではないか」という思いが芽生えたのです。いじめの問題など、それまでの学生生活で見てきたものが積み重なったのかもしれませんが、そこから「世界中の子どもが死なない世の中にしたい」という夢が生まれ、そのためには弁護士になるのが良いと思うようになりました。

通っていた高校は偏差値43というレベルだったので、当時の担任の先生に相談すると「絶対に無理だからやめておきなさい」と一刀両断されました(笑)。良い先生で、真剣に私の将来を考えてくれたからこその助言でしたが、そう言われたことで心に火がつき、「絶対にやってやる!」と決意。そこから猛勉強を始め、一浪で明治大学の法学部に合格することができました。

大学在学中は片道1時間半かけて学校に通い、夕方からは学費のためにアルバイトをして22時過ぎに帰ってくる生活をしていました。卒業後は学費の減免等をもらいながら法科大学院に通えることになり、1日12時間の猛勉強に励んだ結果、司法試験にストレートで合格できたのです。

家族や高校時代の私を知る人たちは、弁護士になれたことを手放しに称賛してくれました。勉強はコツコツやっていれば一定の結果を出せるもの。自分だけの世界で完結していて、ストイックかつマイペースに進められる勉強は自分の性に合っているなと、やってみて気づきました。

髙橋さんのキャリア変遷

しかし、私が司法試験に合格した2013年は、ちょうど弁護士の就職氷河期と言われた時期。法務部の社員を積極的に募集している会社はありましたが、弁護士事務所となると狭き門でした。それでも私はあくまで弁護士として仕事がしたかったので、弁護士事務所への就職にこだわって面接を受け続けました

当時の私の唯一の強みは弁護士資格を持っていることでしたが、弁護士事務所を受ける人たちは全員が資格保有者です。資格プラス立派な学歴がある人、長期の留学経験がある人、大手企業に勤めてから司法試験に合格した人──。アピールポイントを持っている人がゴロゴロいて、勉強とアルバイトに明け暮れていた自分がただただ情けなく、みすぼらしく感じました。高校2年生になってようやく本気で勉強を始めた自分では足りないのだな、と。

司法修習をしながら就職活動をしていたのですが、指定された研修先が高知県だったので、高知から東京の法律事務所まで片道4時間かけて面接に通っては、ろくに話も聞いてもらえない日々が続きました。

そうして1年ほど就活を続けた結果、すっかり心がくじけてしまい、司法修習が終わってからは神奈川にある実家に居座っていました。その姿を見かねた母にお尻を叩かれ、久々にアルバイトをしてみることに。障害のある児童向けの学童サービスにて、多動の症状を持つ子が道に飛び出すのを体を張って止めるようなアルバイトでしたが、若くて体力があったこともあり、この仕事には思いのほか適性とやりがいを感じました。

アルバイトをするなかで、「世界中の子どもが死なない世の中にしたい」という思いで弁護士を志したんだよな、と初心が蘇ってきました。「それならこのままこの仕事をやっても良いじゃないか」と思い始めていたところ、アルバイト先の方の「弁護士の資格があるのだから、それを活かせる場所に行ったほうが良い」という言葉に鼓舞され、弁護士事務所への就職に再挑戦することにしました。

自分を受け入れてくれる場所に出会いたければ「嘘」を捨てること

二度目の就職活動では「自分はこういう人間でしかない、この自分のままで行ってみよう」と開き直ることができ、自分の思いを素直に話すようになりました。そして「君がやりたいと言っているジャンルは儲からないかもしれないけれど、僕はその気持ちを応援するよ」と言ってくれたのが現在の事務所です。自分をそのまま受け入れてくれる場所に出会えるという幸運についに恵まれたのです。

1回目と2回目の就職活動を比較すると、1回目はあきらかに自信がありませんでした。自分は周りよりも能力がないと思い込んでいて、自信がないのにそう見せることにも罪悪感や抵抗感がありました。自分の見せ方もわかっていませんでしたし、頑なな姿勢で就活の空気を読むことを拒んでいたように思います。そういった後ろ向きな気持ちが、面接の態度にも出てしまっていたのでしょう。

他方、2回目の就職活動では「自分に嘘をつく必要はない」と思って開き直っていたので、自分のことを心から楽しく話すことができました。だからこそ、面接相手にも人としての活力やエネルギーのようなものが伝わったのだと思います。

1回目の就活で上手に嘘やおべっかを使って運良く入所できていたとしても、結局のところ長続きしなかっただろうと今は思います。就活は人生を賭けた決断なので、ありのままの自分で臨むことをおすすめします。

やりたいことが見つかっていない人の場合、嘘をつかざるを得ないと思うかもしれませんが、それ自体が悪いことではないので悲観的にとらえないでほしいです。ポイントは「やりたいことはまだ見つかっていませんが、探したいと思っています!」と正直に言えるかどうか。やりたいことを見つけようとしているのは、必死に責任感を持って人生に向き合っている証なので、面接する側も悪い印象は持たないと思います。本音を語る誠実さは、面接官にもちゃんと伝わるはずです。

「自分にとって大事なもの」を守ってくれる会社を探そう

会社選びにあたっては「自分はこれがないとダメになる」というものを先に見つけておくことをおすすめします。

就職活動中は「あれもこれも、あったらそりゃ良いよね」という感覚になりがちですが、何もかも最高という会社はありません。「右手か左手か、どちらかを選ばないといけないとしたらどちらを選ぶか」くらいの真剣さで、自分にとって絶対必要なものを考えてみてください

その要素を失ったら、自分という存在が崩れてしまうものは何か。どの条件は譲れて、どの条件は絶対に譲れないのか。具体的にシミュレーションしていくと、自分にとって必要な要素を持った会社が見えてくると思います。

会社選びのポイント

ちなみに、私は司法修習生の頃に高知県で暮らしたことで「自分は地元から離れるとダメになる」と気づきました。そのため、地元から遠いところにある弁護士事務所に入るという選択肢は検討しませんでした。知人や友人を見ていても、本人が望むワーク・ライフ・バランスをかなえてくれる会社だと愛社精神も湧きますし、長続きする印象です。

たとえばスノーボードが趣味で、毎週末にでも出かけられる生活がしたいという人にとっては、雪山に通いやすい場所にあって、休日を十分に確保できて、趣味の費用も捻出できるくらいの給料をくれる会社ならば、きっと長続きすることでしょう。自分にとって大事なものを守ってくれる会社に対しては、人は力を尽くせるものです。

ワーク・ライフ・バランスに限らず、人や環境で選んでも良いと思います。「自分は体育会系のノリがどうしても苦手だから、そういう社風の会社には行きたくない」といったことも、自分が重視するものの一つだと思います。人と比べる必要はありません。自分にとって大切なものを守れる会社をぜひ探してみてください。

常に現状を見つめ続ける。うまくいかないときは「つらいと感じる理由」の言語化を

「この代表についていこう」と決めて今の事務所に入所し、10年ほどが経ちました。私はこの事務所しか経験がありませんが、仕事柄、いろいろな人の話を聞いて思うことがあります。それは、ファーストキャリアは良くも悪くも自分の価値のすべてになりやすいということです

いろいろな会社を見れば価値基準が相対化されていきますが、1社目はほかの会社と比べようがないので、善悪の判断がつきづらいです。2社目、3社目に移ってみて初めて「1社目の環境は良くなかった」と気づくこともあるでしょう。しかしそれはそれで良いと思います。1社目で良い会社に入ることができればラッキーですが、失敗したと思ったら次に活かすのみです。「良くない環境でも頑張ることができた自分は、割とストレス耐性があるのだな」とポジティブに受け止められると良いですね。タフさがある人はどの会社でも重宝されると思います。 

一つだけ大切なのは、今いる場所に対して常に目を閉じないでいること。つらいと思ったら、つらい状況を冷静に分析しておくことです。どのようなところが自分は嫌だ、つらいと感じるのか、この会社のどこが良くないと思うのかを言語化しておきましょう。

退社に至った理由をはっきり言えない状態だと、会社側は「この人は被害者意識が強いタイプなのかな」「当社もこの人を不幸にしてしまうかもしれない」と感じてしまい、受け入れることに二の足を踏むかもしれません。

逆に、転職時の面接で「前の会社のこの部分が自分には合わなかった」ときちんと説明できれば、会社側も「うちはそういうところではないから大丈夫」と言えるので、過去がネックにならない転職ができると思います。会社に対する客観的な視点を転職先に持っていけば、双方にプラスの気づきがあるのではないでしょうか。

既存の市場がないならファーストペンギンになれば良い。開拓者になるキャリアの描き方

レイ法律事務所 パートナー弁護士(共同経営者) 髙橋 知典さん

キャリアにおける2つ目のターニングポイントは、入所後しばらくしてやってきました。

弁護士事務所にはいろいろな案件が舞い込んできます。子どもや学校関連の案件を担当する夢は変わらず持っていましたが、「ひと通りいろいろな種類の案件を経験して実力を付けよう」「まずは弁護士として立派になり、格好が付いてから、30代半ばくらいから夢に挑戦しよう」などと思っていたのですね。

そのため、最初は相談件数の多い離婚案件などをメインにやっていたのですが、事務所の代表が「やりたいことがあるなら発信しないと、チャンスはやってこないよ」「今すぐやれば良いじゃん」と声をかけてくれたのです

当時、学校問題を扱う弁護士はほとんどいませんでした。もし自分が道を切り開くことができて、競合がどんどん出てくれば、サービスのレベルも上がる。そうすれば「学校問題には弁護士を使うのが当たり前」という世の中にできるかもしれない。その可能性を示せるならば、自分がやれば良いだけだ、今からすぐやろう。代表の言葉をきっかけに、そう思うことができたのです。

いじめ問題が解消しない一つの大きな理由は、ボランティア精神でどうにかしようと思うからだと私は考えています。だから社会はいじめ問題を教員や公務員に任せきりにし、一向に解決しない。しかし、いじめ問題の解消が生活がかかったビジネスになれば、必死に問題解決に挑むはず。学校問題を扱う市場を作ることができれば、「ぜひこの問題を扱わせてくれ」という弁護士が増加したり、切磋琢磨して技術を磨く環境が生まれたりして、解決できる事案を増やせるのではないか。そんな思いでチャレンジしました。

代表が言ったとおり、「キャリアはまだありませんが、弁護士としていじめ問題をやっていきたいです」と発信していると、依頼が舞い込んでくるようになりました。相談の際にも「私もまだ実績はありませんが、こういうやり方ならできると思います」と自分の考えをお伝えし、その言葉を信用してくれたお客様たちと一緒にキャリアを作り上げてきた感覚です。

何かを最初にやろうとするならば未経験なことは仕方がない。自分や人の役に立つことなら、まずやってみれば良い。今ではそう思えています。

髙橋さんからのメッセージ

現在は、渋沢栄一の著書『論語と算盤』を指針に、儲かるかどうかだけでなく、世の役に立つかどうかを考えてから物事を決めるようにしています。社会にとってもプラスになるビジネスを展開できていると感じる瞬間に、一番の充実感を覚えます。

具体的には「子どもの役に立つか」「子どもたちの幸せにつながるかどうか」を仕事を受ける基準にしており、そこから逆算してやるべきだと思うことに取り組んでいます

親御さんから「髙橋さんのおかげで、うちの子が学校に行けるようになりました」と感謝の言葉をいただいたときには、生きていて良かったと思うくらいにうれしかったですね。これまでの道のりが間違っていなかったと思うことができました。この出来事もキャリアのターニングポイントの一つだと思っています。

これからも「子どもの世界を良くしていくこと」が夢

学校問題に取り組み始めて改めて気づいたのは、実は教育の分野は弁護士のニーズが非常に高いということです。今まで手を挙げる人がおらず、この分野で成功した弁護士のロールモデルもいなかったために、弁護士があまり介入していなかった世界であることがわかってきました。

先生の労務環境や子どもの障害の特性など、ある程度の専門知識は必要ですが、学校問題というのはこんなにもニーズがあって、人の役に立つことができるやりがいのあるジャンルだということを知ってほしい。そんな思いで、書籍の監修やメディア出演なども積極的におこなっています。

最近は、オンラインでも良いので学校を作れないかといったことも考え始めています。学校のいじめ問題を扱っていると必ず「傍観者が多い」という事実にぶつかります。世界的に見ると特にアジアに顕著な傾向と言われていますが、これは自分が社会を良くするという当事者意識と、調整力や交渉力といった技術を備えた子どもが少ないことが理由だと考えています。

日本人は社会人になってから調整力や交渉力を身に付けていくケースが多いのですが、学生の頃からそうした力を持った子が一人でも二人でもいれば、クラスのなかでネゴシエーションが生まれ、問題の解決に一役買ってくれると思うのです。何かしら、そういった方法論を教えられる場を提供できたらと思っています。

学校問題を扱えば扱うほど、こうした具体的なアイデアがどんどん頭に浮かぶようになってきました。これからも自分にできることを一つひとつ形にしていくことで、子どもの世界を良くしていくことがキャリアのビジョンです

就活はうまくいかなくても良い。チャンスとピンチはコインの裏表

最後に学生の皆さんに送りたいのは「ピンチはチャンス、チャンスはピンチである」というメッセージです。就職活動中は片方しか見えなくなりやすい時期ですが、必ず両面があることを忘れないでほしいですね。

就活の状況が芳しくなく、今ピンチだと思っている人は、自分が人生で初めての挑戦をしているからこそ壁にぶち当たっているのだと理解してください。自分が大きくステップアップするチャンスなので、カッコつけず、自分の生きてきた姿で勝負してみてほしいです。

「会社に自分自身を否定された」と感じて傷ついたときは、自分と向き合うためのこれ以上ないチャンスです。人は自分で自覚している弱点を否定されてもそれほど傷つきませんが、自分で気づいていない弱点を知ったときには大きく傷つきます。自分にとっておそらく重要な気づきになるので、優先順位を見直すきっかけにつなげていくと良いと思います。

ただし「学習性無力感」に陥らないようにだけは注意してください。人や動物は「どう足掻いても今の状況が変わらない」と思い込むと、痛みから逃げ出さなくなることが知られています。自分の行動で未来を変えられるとすぐには思えなくても、コインの片面だけを見ないように。うまくいかなかった面接は自分を成長させるためのものだったんだ、などと上手に受け止めてください

そして逆に、内定をあちこちからもらっているような絶好調の人も気をつけてください。「人生なんて余裕だな、チャンスだらけだ」と思っているかもしれませんが、実際にはジェットコースターのてっぺんにいる状態で、社会に出てから急降下が始まるかもしれません。

ピンチとチャンスの両面を意識しよう

物事がうまくいっている時、人はわかりやすい価値観にひかれがちです。たとえば、人気ランキング常連の大企業の内定をもらったら「もったいないから、とりあえず入社しよう」なんて選択をしてしまいやすいもの。ほかの人が求めているものだから自分も気に入るはずだと思い込んでしまうのですね。

選択肢を持てているときほど、その選択で本当に良いのかを熟考してください。自分にとって本当に大切なものは何かをしっかり考えましょう。自分だけの人生の、自分だけの価値を見つけることが、充実したキャリアを歩むために一番重要なことだと思います。

髙橋さんが贈るキャリア指針

取材・執筆:外山ゆひら

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