“自分らしく”よりも“変われる自分”へ|豊かなキャリアをデザインし続けるために

タガタメ CEO・代表取締役 酒井 大成さん

タガタメ CEO・代表取締役 酒井 大成さん

Tomoshige Sakai・高校を卒業した後、Webマーケティングの会社に入社。SEOの新規営業、自社メディアの立ち上げなどを手掛け、最年少部長となる。その後転職をしてリスティング広告の運用を担当した後、広告代理店で数年間経験を積んでタガタメを起業。以降現職

この記事をシェアする

アルバイト経験から磨いた「人を見る」感覚

早く大人になりたい。昔から、そのように考えることがよくありました。当時の私にとって「大人になる」とは、自分でお金を稼ぐこと。そのため高校卒業後も進学はせず、4年間ほどひたすらアルバイトに打ち込む生活をしていました。自分でアルバイトをして好きに使えるお金を得るのは素直にうれしかったですね。

フードコートや洋服直しの配達、携帯販売など7~8個のアルバイトを経験しましたが、選ぶ基準はすべて「ノリ」です。何らかの一貫性を持ってアルバイトを選んできたわけではありません。正直なところ、ファーストキャリアとなるWebマーケティング会社への入社を決断したのも偶然でした

もともとはアルバイト希望として面接を受け、労働条件として1日8時間しっかり働きたいと申し出たところ「その働き方なら正社員と変わらないよ。正社員はどう?」と打診をいただいたのです。断る理由もなく、「これからはインターネットの時代だ」と思っていたのもあいまって、正社員となることを決めました。

酒井さんのキャリア変遷

そのような経歴のなかでも、一貫して持っている価値観はあります。それは、「働く先は人を見て決める」ということ。面接官と言葉を交わしていくなかで「この人と働きたい」と思えるかどうかは重視していました。自分の直観に従うところも大きかったですね。結果として、1社目の会社を選んだ自分の選択は間違いではなかったと思います。当時一緒に働いた社長に出会っていなかったら、今の自分はありませんでした。

人を起点に働く場所を決めるのは、皆さんがファーストキャリアを築く環境を検討する際にもおすすめです。社会に出たことがない状態で、入社する企業について明確な基準を持つのはなかなか難しいですよね。だからこそ、面接官やそこで働いている人を見たときにどう思うかは、重要な判断基準になると思います。

また自分に合う人をできるだけミスマッチなく見分けるには、「こういう人は嫌だな」と思う人物像を考えておくのが良いと思います。漠然と「良いな」と思う人を探すよりも、避けるべき人物像に当てはまらない人を探すほうが後悔のない選択につながるでしょう。

「できない」という自覚は原動力になる

1社目の企業ではSEOの営業や自社メディアの立ち上げなどのさまざまな経験をさせてもらい、結果として最年少で部長になりました。経歴だけを見ると順風満帆なように見えますが、この時代を振り返ると「しんどかったな」という思いが強いですね。生まれて初めて実力不足を痛感した時期でもありました

今考えれば当たり前のことではあるのですが、アルバイトと正社員はまったく違うということを実感させられました。今までは8割の力を出せばなんとかなっていたのに、社会人は全力を出しても結果がともなわないことがある。その事実をまざまざと見せつけられましたね。ただし、この「できない」という気づきは大きな財産でもあったと思います。

当時はテレアポでの営業がメインの仕事で、自分なりに十分に頑張っているつもりでした。しかし経験もスキルもなしにできることはたかが知れており、周りはどんどん契約を取ってくるのに自分は一向に契約件数が伸びない、という状況に陥っていたのです。

それでも先輩の真似をしたり、とにかく数をこなして食らいつきました。「自分はまだまだできないんだ」「経験が足りないんだ」その気づきがあったからこそ、腐らずがむしゃらに頑張ることができたのだと思います。そのうちに少しずつ成果が出るようになり、25歳で部長職を担うことになりました。

「できない」という気づきの効果

「自分は幸せじゃない」という気づきに見出した転換点

25歳という若さで部長の立場を得ると、少なからず気が大きくなるものです。当時の自分もこれまで残してきた功績を誇らしく思っていました。しかし、その思いが覆る出来事があったのです。

それは、後輩たちと静岡旅行に行ったときのこと。旅先で開催されていたお祭りに行ったのですが、そこで活き活きと働く人たちの姿を目にしました。

皆笑顔で、楽しそうに働いている。一方の自分はどうだろう。毎日遅くまで残業をし、どれだけやっても叱られることもある。毎日笑う暇もなく働いている自分は、果たして幸せなのだろうか。

このときはっきりと「今の自分は幸せではない」と感じたのです。

今思えば、当時の自分にはインプットが足りていなかったのだと思います。目の前の仕事に必死で、勉強よりも成果を出すことに躍起になっていました。そのせいで「幸せじゃないかもしれない」と思ったときに「ではどうするか」と打ち出せる手札があまりなかったのですね。そこで下した決断は、今の環境を離れるということ。もちろんそれ以外にも理由はありましたが、このときから転職に向けて動き出すようになりました。

キャリア選択の基準は「目の前の人を救えるか」

タガタメ CEO・代表取締役 酒井 大成さん

28歳で転職をして2社目の会社に入社し、半年間ほどを過ごしました。在籍していた期間で見れば短い間でしたが、ここでも自分のできなさを実感することになります。今思えば、このときが一番つらかったかもしれません。

前職には6年もの間在籍しており部長にもなっていたので、ある程度自分には知識やスキルがあるものだと思っていました。しかし蓋を開けてみれば自分の強みは前職でしか活かせず、2社目では思うように成果を出すことができなかったのです。2度目の「自分はこんなにもできないのか」という失意に、かなり気持ちが追い込まれたのを覚えています。それからは、半年間で営業のフローから社内の仕組みづくりの方法まで、一から学び直す日々でした。

起業を意識し始めたのは、この頃だったと思います。会社の仕組みを知れば知るほど「どこかの組織に属しているのでは、理想の働き方はできない」と思ったのです

私が目指していたのは「目先の利益よりも目の前の人を救う」という生き方。1社目でも2社目でも、会社の利益を優先するためにクライアントの意思を置き去りにしてしまったり、「儲からない」という理由で目の前の人を助けられなかったりといったことは往々にしてありました。会社を運営していかなければいけない以上、仕方のない面は確かにあります。それでも、目の前の人を救える企業運営をしていきたいと思ったのです。

自分の「幸せ」は、いつであっても誰かのために行動を起こすことができて、その行動によって相手を笑顔にできた瞬間にあるのだと、このとき理解しました

自分らしく生きない。多様な経験をもとにバランス感覚を養おう

2社目の企業に半年間務めたのち、3社目を経てタガタメを起業しましたが、企業運営をするなかで大切だと思うのは「自分らしく生きない」ということだと思っています。自分を押し殺して生きるといった意味ではなく、「お決まり」をなくすようにしていますね

これは、1社目で働いていたときの行動指針の一つでもありました。当時の会社では「自分らしさ」にこだわらず、役割や状況に応じて最善を尽くすという価値観が共有されていて、それが今も自分の中に根付いています。

具体的には、毎日何か一つは違うことをするようにしています。毎日の献立、通勤時に通る道、社員に相談を持ちかけられたときに出す答え、事業の打ち出し方──。日々あらゆる選択を迫られるわけですが、「この選択って自分らしいのでは?」「いつもこちらを選んでしまっていないか?」といったことを常々考えていますね。

普段と少しでも違うことをしていると、自然と新しい経験や出会いにつながります。そしてそこで得た経験値は、必ず自分の力になるのです。自分の価値観に当てはめるとすれば「人を助けるための武器」でしょうか。経験値があれば「過去にこういったときはどうしていたかな」「あの人はどうすると言っていたかな」と考えることができて、実際にできることも格段に増えると思っています。

皆さんにも、ぜひ学生のうちにたくさんの「初めて」を経験してほしいですね。社会に出る時点で貯めた経験値は、今後社会人として活躍していくうえでかけがえのないあなたの武器になるでしょう。

酒井さんからのメッセージ

社会に出て活躍するうえでは、「強み」に固執しないことも大切だと思います。就活においては「強み」は非常に重要なものとして扱われますが、「自分の強みはこれだ!」と一つのことにこだわりすぎてしまうと、それを失ったり発揮できない状況に陥ったときに一気に何も持たない状態になってしまうからです。

また、強みや弱みというものは確固とした形を持っているものでもないと思います。経験を積んでいくなかで絶えず移り変わり、昨日は弱みだったものが強みになったり、昔は強みだったものが今では大きな弱点になっていたり、ということもあるのではないでしょうか。私自身、これまで起業をしていろいろな経験を積んできましたが、強みや弱みの変化はよく感じます。

大切なのは、強みを押し出しすぎないこと。言い換えれば、弱みに重きを置いてみることです。事業を推進するうえでもこの感覚は大切にしていて、AとB、どちらの事業を推進していくかを考える際には、どちらかというと不得意な分野を優先するようにしています。

得意なほうに比重を寄せすぎると、そちらばかりが推進されて不得意な分野が一向に進まない、というようなことになってしまいがちです。そうなるよりは、あえて不得意な分野に乗り出したほうがバランスがうまく保てるように思います。

酒井さんが大切にしている「バランス感覚」

こういった「バランス感覚」も、社会で活躍するうえでは大切だと思います。自分の強みが発揮できるほうよりも、あえて弱みが出やすいほうを選んでみる。まずはそういった小さな心掛けから初めてみるのがおすすめです。それを繰り返していくうちに、弱みと強みのバランスがとれたオールマイティーな人材に近づいていけるのではないでしょうか。

多様な経験をし、それをもとにバランス感覚を磨く。学生のうちは、この2つを意識してみてください。それがあなたの人間性を豊かにし、選択肢を多く持てる人材となるための手助けになると思います。選べる道が多ければ多いほど、後悔のない生き方がしやすくなるのではないでしょうか。

酒井さんが贈るキャリア指針

取材・執筆:瀧ヶ平史織

この記事をシェアする