自分の心に正直に選んだ道を正解にしよう|頭脳と仲間を大切に育んで

ヤブサチ 代表取締役社長 大城 直輝さん
Naoki Oshiro・沖縄県出身。1998年和歌山大学卒業後、沖縄にUターンしサンエーにてバイヤー、商品企画、店舗運営、新規事業立ち上げなどを経験。2004年、沖縄県南城市にヤブサチを創業。世界一のロケーションで、世界一のカフェを目指し人材教育や経営を続けている
キャリアの底にある原動力は祖父の姿
沖縄で生まれ、母の女手一つで育ててもらいました。祖父に可愛がってもらうことも多く、トラック運転手から身一つで建設業を興した祖父のことも、母同様に尊敬していました。いつかは自分も祖父のように起業し、自分のビジネスをやりたいと心の底で思い続けていました。
その後、和歌山県の大学に進学し、忙しい学生生活のなかで起業への夢は遠くなっていましたが、心の奥底にはずっと変わらずに祖父への憧れと、その背中を追いたいという気持ちがあったと思います。
幼い頃に抱いた夢や憧れは、あなどれません。私はそのおかげで会社員時代を経て、経営者になることができました。夢は一生を通じて自分を引き上げ、後押ししてくれるもの。ぜひ捨てずに、大切に持ち続けてください。
違和感は行動のトリガー。見過ごさず向き合おう
いつかは自分の事業を持ちたいと思いながらも、当時の自分は起業に関して右も左もわからない状態。まずは就職して社会経験を積もうと考え、商社やメーカーを志望して就職活動をしました。縁あってあるメーカーに内定し、これからは大阪で働くのだと意気込みながら内定式に参加したのですが、そこで強烈な違和感が襲ってきます。
具体的に悪い点、不都合な点があったわけではありません。会社の規模も事業内容も待遇も、申し分ないものでした。しかし一堂に会した同期と一緒にいるときの違和感は大きく、そのうえ自分がここで働く姿もまったくイメージできない状態。これは違うと悟ってしまったのです。
理由は直感的で曖昧なものでしたが、自分にとっては切実で、「この違和感を無視してはダメだ」と思いました。そこで内定を辞退し、沖縄に一旦帰る決意をしました。

一転して沖縄で就職活動を始め、県内小売最大手であるサンエーに出会ったときは「ここだ!」という気持ちが湧き上がってきました。キャリアコンサルタントであった母に同社の社風の良さや、“経営者養成学校”という異名があると聞き、期待して説明会に向かったところ、実際に店舗で若手社員と話すことができたのです。
皆自分の仕事について熱く語っていて、一気に引き込まれ、ここで働きたいと感じましたね。一度メーカーの内定式で違和感を感じていたからこそ、「ここはフィットする」と判断できたのだと思います。
あのままメーカーで働いたとしたら、また違う未来があったのかもしれません。でも違和感を感じながら新しいことをスタートしても、うまく走り出すことができないのではないでしょうか。自分の心に正直に、直感を大事にしてほしいと思います。私は直感に従ったからこそ、新たに出会ったサンエーで素晴らしい経験を積むことができ、今につながっていると感じます。
体と心を動かし相手の気持ちを実感することから物事は動き出す
サンエーでは社会人としての基礎を叩き込まれました。当初は学生気分が抜けておらず、真剣味も薄かったために一緒に働くメンバーからは距離を置かれてしまい、怒られることばかりでした。特にパートの人は業績によって昇給額や賞与額が変わるので、皆仕事に真剣に取り組んでいます。「頑張って成果を残そう」と思ってくれる人が多いなか、その責任感や意欲に応えきれていなかったのです。
ふわふわと仕事をしていた私は、「どんな気持ちで働いているの?」とパートさんたちから詰め寄られ、ようやく自分に求められていることを真剣に考え始めました。パートさんは皆大ベテランですから、会社や商品、業務の隅々まで知り尽くしています。まずは少しでも追いつけるように、自分の業務外の細かな仕事まですべて経験し、覚えていきました。
また、経験の足りない自分がリードするのではなく、サポートすることが役割だと気づき、とにかくスタッフ全員が働きやすいように動いていきました。すると「大城くん」と呼ばれていた呼び名が、いつしか「大城さん」に変わっていきました。少しずつ信頼を得られていると感じ、本当にうれしかったですね。

自分の狭い世界で考えているうちは、物事はうまくいきません。周りの支えてくれる人、一緒に歩む人、ついていくべき人が、何を考えてどんな思いを持っているのか、体と心の両方を動かして近づき、理解してほしいです。周りの人と心を通わせることで初めて、さまざまなことが動いていきます。
正解を選ぶより選んだ道を正解にしよう

その後、サンエーではいくつかの店舗を任せていただき、店長としても力を発揮しました。若者向けのアパレルを扱う店舗にいたときは、地域の高校生が皆自分のお店の服を着てくれるほどになって、大きなやりがいを感じました。その後、ショッピングセンター内の店舗立ち上げにかかわるなど忙しい日々を過ごしたのですが、子どもが生まれたことで人生を考え直します。
あまりに忙しく、家族との時間を取ることができないなかで、このまま進んで良いのか自問しました。出世コースに乗っていける展望もあったので、なおのこと迷いましたね。でも家族との時間を作りたいという思い、さらに昔から胸の奥にあった自分のビジネスを持ちたいという思いが大きくなり、会社を辞めました。
ちょうど祖父からの後押しや出資もあり、始めるなら今だと感じました。現在経営するカフェがある素晴らしいロケーションを見て、「ここで飲食店をやろう」と決意するまでに時間はかかりませんでした。
あまりに美しいビーチを見たら、誰だってこの場所を活かして何かやりたいと思わずにはいられないでしょう。世界中の人にこの素晴らしい景観を見てほしい、そしてさらにこの地域のためにもなるような場所を作りたいと考え、ヤブサチを創業しました。

もちろん飲食業界の経験は皆無だったため、最初は本当に大変でしたね。でも、大金をかけて建物を改装し、人生をかけて始めた事業をあきらめるわけにはいきませんでした。
大きな決断をする時、“正解”を選ぶのは難しいことです。でも、選んだ道を正解にするために努力することは誰にでもできますよね。選んだ道を正解にする覚悟さえあれば、きっとどんな選択をしたとしてもうまくいくでしょう。
選んだ道を正解にするのと同じ理屈で、「自分と未来だけは変えられる」ということも覚えておくと良いかもしれません。人はいつでも変われます。そのときに必要な考え方を身に付け、それに従って考え、行動すれば、自ずと変化できます。
一方で他人は変えられません。時には「あいつが〇〇だから」「あいつのせいで」というような他責的な考えにとらわれることもあるかもしれませんが、その考え方をやめない限り満足は得られません。いつもフラストレーションを感じてしまうでしょう。
相手を意識し変えようとする「あいつが症候群」を早く卒業して、自分とその未来に目を向けてみてはどうでしょう。

投資すべきは「頭脳」という財産
Cafeやぶさちをオープンした当初は軽食を出せば良いと思っていましたが、なかなか売り上げが振るわない日々。やがて素晴らしい景観を目当てにやってくるお客様はもっと場所に見合った食事を望んでいるとわかり、試行錯誤を繰り返しました。また店舗のスタッフが高いレベルでサービスを提供できるよう、教育にも力を入れました。世界一の景観に負けない、世界一のカフェを作ろうと、目標を高く持つようになったのです。
しかし、人材の育成や目標の共有は一朝一夕には進みません。スタッフが自分で考えて自分で動けるように、研修にも力を注ぐようになりました。たとえば一流のサービスに触れてもらう機会を設けたり、経営の考え方を教えたり──。「頭脳」という一人ひとりが持った財産をさらに富んだものにするため、投資を続けました。

誰もが独特で素晴らしい頭脳を持っています。それをさらに良いものにするためには、投資が必要です。勉強をする、いつもと違う経験をする、より良いものに触れる、貴重な体験をする──。一流のお店で食事をするのでも、いつもより良い服を身に着けてみるのでもかまいません。せっかくお金を使うなら、ぜひ自分の脳をグレードアップするために使ってほしいですね。
苦楽を共にした仲間を大切に
現在は自分で考えて動けるレベルの高いスタッフも増え、私は経営に専念しつつ、より良いカフェづくりのために動き続ける日々です。お店が歴史を重ねると、開店当初に店を支えてくれたある素晴らしい仲間のことを思い出します。当時は私が未熟な経営者だったがために、優秀な彼は店を去ってしまいました。
仲間は本当に大切だと、しみじみ思います。一人でできることなどたかが知れていますが、仲間がいれば世界は広がります。
たとえば学生時代の友人は損得なしに付き合える、貴重な存在ですよね。長い付き合いのなかで、違う世界で活躍する姿に影響を受けることもあるでしょう。苦楽を共にした仲間は、ぜひ大切にしてください。人生において本当に得難い財産です。

取材・執筆:鈴木満優子
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