磨いてきたのは「自分で考え発信する力」|選択肢を広く持ち問いを突きつけられる環境に身を置こう

門崎(kanzaki) 取締役 繁永 達也さん

門崎(kanzaki) 取締役 繁永 達也さん

Tatsuya Shigenaga・山口県出身。教育人間科学部卒。2019年に大学卒業後、リクルートに新卒入社。2020年3月に退社し、アメリカンフットボールのプロ選手を目指して渡米。現地でプロ養成リーグやトライアウトにチャレンジしながら門崎に入社し、日本と行き来しながらオンラインを駆使してビジネスサイドのキャリアも継続。2024年に競技を引退し東京オフィスに勤務。店舗運営、営業支援、人事採用など、さまざまな業務を経験したのち、2024年より現職

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部活と二度の就活で気づいた「選択肢の最大化」の重要性

キャリアについて最初に真剣に考えたのは、2回目の就職活動のタイミングです。

大学3年で取り組んだ1回目の就職活動の際は、ほとんど準備をせず臨みました。アメリカンフットボールの部活に打ち込んでいて、時間的な余裕がなかったのです。

メディアや銀行、商社、不動産など、人気の大手企業だけを手当たり次第に受けるような就活でした。幸いにも総合商社から内定をいただいたのですが、内定後に「試合を取るか、卒業単位のための授業を取るか」という二択を迫られて迷いなく前者を選び、1年間の留年をすることに。そのため2回の就職活動をすることになったのです。

2回目の就活では、意識的に視野を広げるようにしました。やりたいことが特にあったわけではないものの、興味を持てる領域を見つけたいという思いが芽生えたからです。「この業界は違うだろうな」と思いつつ参加した説明会で意外に興味を持てる企業に出会えたこともあり、先入観にとらわれずできるだけ多くの企業を見るようにしました。

これから就職活動を始める人たちも、先入観やイメージで選択肢を狭めず、多くの選択肢を自ら取りにいくことをおすすめします。複数の選択肢をテーブルに並べたうえで「自分はこうしよう」と選ぶほうがキャリアの納得感は大きくなるからです

繁永さんからのメッセージ

1回目の就活では時間的に余裕がなかったものの、「選択肢を最大化して、そのなかから選びたい」という考え方は、昔から持っていました。これは地方出身であることが大きく関係しているように思います。地方では、あらゆるものの選択肢が限られているからです。

たとえば、小中高時代は野球部で活動していたのですが、田舎の公立小学校だったので部活の選択肢が少なく、どれかと言えば野球かなという程度で始めました。自分たちなりに日本一を目指して頑張っていたのですが、都会にある私立の名門校の野球部のメンバーと国体の関係でしばらく一緒に生活した際に「自分もこういう厳しい環境に身を置いていたら、もっと頑張れたかもしれないな」と思いました。彼らは生活のすべてが野球に紐づいていて、自分たちとの意識の差を感じたことを覚えています。

こういった思いを持ちながら上京したので、大学の部活ではあえて経験したことがなかったアメリカンフットボールを選びました。ここがキャリアにおける最初のターニングポイントです。大学が強豪校というわけではなかったのですが、このスポーツは想像以上に自分に合っていたようで、思いもよらなかった人生の選択肢を持つことができました。詳しくは後述します。

繫永さんのキャリアにおけるターニングポイント

ファーストキャリアにあえて選んだのは「問いを突きつけられる環境」

2回目の就活で最後まで迷ったのは、1回目の就職活動でも内定をいただいた総合商社と人材会社であるリクルートの2社です。内定をいただいた後にじっくり検討しました。

まず商社に惹かれたのは、給料が高い人気業界であることに加え、「人」が業績を左右する仕事だと思えたからです。商社は世界中からモノを買ってくる仕事で、各社で得意な領域はあるものの、事業内容自体にはどの企業もそう違いはありません。それでも各社の業績に差が出るのはひとえに「中にいる人」の優秀さに起因するのだろうと考えました

内定後は、五大商社の内定者が集まる会にも参加してみました。優秀な人に囲まれて刺激的な環境で働けるだろうという期待があったものの、実際に内定者たちと話してみると、TOEIC満点なんて人もいて「この超優秀な集団のなかで自分は本当に活躍できるのだろうか」と思うように。「とりあえず入社すれば高待遇は約束されているし、最悪、窓際社員でも良いか」と自分を納得させつつ、新卒1年目からこんな考え方をしていると先がないのでは、という不安にも駆られました。

一方、リクルート社の先輩たちには、個別にたくさん話す機会をいただきました。どの先輩も「あなたはどうしたいの?」と繰り返し問いかけてくるので、ひたすらこれを聞かれるのは疲れるなと思った瞬間も正直あります。しかし、そのおかげで「自分はどうしたいのだろう」と内省をうながされ、自分で考える癖が付いてきたのです。「何をしたいかを問われるのはあまり好きではないけれど、どうせ働くならこういう環境に身を置いたほうが自分は成長できるのではないか」と思うようになりました。

仕事内容やかかわる業界はどちらにせよ配属先に左右される。それなら、企業のスタンスに共感できるほうを選ぼうと思ったときに、リクルート社の考え方のほうが自分に合うだろうという結論にいたりました。各社の業績を競い合うような商社の業界の雰囲気が、自分には合わなそうだと感じたことも理由の一つです。中長期的な目線で複合的に考えた結果、リクルートに入社しようと決心しました。

リクルート社とのかかわりを通じて「自分で考える習慣」を叩き込んでもらえたことは、その後のキャリアでも非常に役立ちました。自分の考えや意思を持って行動できることはこれからの時代に活躍する人材の特徴でもあると思います。目の前の問題を自分事ととらえて「これをどうやれば解決できるのか」を考える癖を付けておくと、どんな業界や企業に入ったとしても役立つはず。

AI(人工知能)なども進化する時代において、自分の頭で思考せずに作業をこなすだけの人は淘汰されていくように感じますね。自分の価値をどう発揮していくかという視点は、これまで以上に大事な時代になっていくと思います。

「自分で考える癖」を身に付けよう

就活は自分の価値観に基づいて自由に進めてOK。大手志向も悪くない

就活時にやりたいことが明確になっている人の場合は、企業の規模はあまり気にせず、やりたいことができるところに行くのがベストでしょう。

一方で、学生時代の私のように、特にやりたいことが見つかっていない場合はその業界のトップ1、2の大企業を狙ってみるのがおすすめです。大きい企業には、大きくなっただけの理由があるはずなので、そこを見ておくことは意義があると思います。

2回目の就活では数社のベンチャー企業を受けてみましたが、ベンチャー企業のビジネスはピンポイントの市場に狙いを定めているものが多く、社会人経験のない未熟な自分には理解しづらいものが多かったです。私の就活当時はまだまだ大手志向が強かったので、「まずは大手企業に入ってから、転職でベンチャー企業に行く」というキャリアのほうが一般的でイメージしやすかったということもありますが、自分が働いているイメージが湧かなかったので、中盤以降はそれなりの規模がある企業に絞りました。

私はこのような方法でファーストキャリアの意思決定をしましたが、この方法が唯一無二の正解というわけではありません。ほかならぬ自分の人生ですから、就活も自分の好きなやり方で進めて問題ないと思います。

ただ、就活中はいろいろな人がいろいろなことを言ってくるので、混乱する瞬間はあるかもしれません。「Aさんはこう言っていたのに、Bさんは真逆のことを言っている、どちらが正しいのだろう」と思ったときには、自分の考えや価値観に近いと思う人の意見を参考にすればOK。耳を傾けたいと思える人やロールモデルにしたいと思える先輩社員を見つけてよく話を聞いたうえで、最後は好き嫌いで決めるしかないと思います

ファーストキャリア選択のポイント

アメフトの本場で身に付けたのは「結果への集中力」と「アピール力」

リクルート入社後は新卒採用や中途採用にかかわり、1年目の半ばからはグループ企業でキャリア採用や人事考課、査定などの業務を担当していましたが、入社から11カ月目には退社することを決めます。卒業後も社会人リーグでアメリカンフットボールを続けていたのですが、幸運にもプロ養成リーグにチャレンジしないかという誘いをもらったことがきっかけです。体が動く20代のうちにしかできないチャレンジだし、人生で二度とないチャンスだと思えたことからやむを得ず退職を決めました。

私のキャリアの軸には「結果が出ることをやりたい」という思いがあり、結果が出せそうだからプロを目指してみよう、という考えでした。この誘いがなければ、リクルートにもう少し長く勤めて、ビジネス領域でやりたいことを見つけてから辞めていたと思います。

そうして、新型コロナウイルス感染症が流行し始める直前の2020年に渡米。日本のチームにも所属した状態で、日米を行き来しながらアメリカのプロリーグでのトライアウト(入団や契約を目指し、チームの関係者の前で能力をアピールする機会のこと)に繰り返し参加する日々が始まりました。

アメリカンフットボールの本場に飛び込んでみて、最初に驚かされたのはメンタリティの違いです。日本のように順番を待って自分をアピールする選手はおらず、アメリカは自分から一歩前に出続ける積極性を持った選手ばかり。結果を出すことへの集中力が段違いだと感じました。

そのようななかで「自分のように言語の壁があり、ビザ取得など手間のかかる日本人選手をわざわざ使いたいと思ってもらうためには、自分から積極的に個性をアピールしていくしかない」と思うように。ライバルたちの意欲と野心に満ちた環境に身を置いたことで、自分の存在感をいかに出していくかという視点が磨かれ、気がつけば性格も変化していましたね。

16の性格タイプに分類する「MBTI性格診断テスト」でも、リクルート時代は「擁護者タイプ(=献身的で人を暖かく守る)」という結果でしたが、渡米後は「巨匠タイプ(=大胆で実践重視)」という結果になっていました。

一方で、選手として結果が出なければ、アメフトの世界から離れようということも決めていました。現役を終えた後にも「このスポーツが好きでたまらないから、この世界に何らかの形でかかわり続けたい」とコーチやチームの関連職を目指す人は少なくないですが、私の場合は「プロスポーツ選手になってみたい」という気持ちでのチャレンジだったので、4年ほどでスパッと引退を決めることができました。

選択肢が多いほど結論の精度は増す。発信力を大切にしよう

当社・門崎の一員になったのは、渡米して半年ほど経った頃です。一生スポーツで食べていけるとは思っていなかったのでビジネスサイドでも力を付けておきたいという思いがありました。その環境を探すなかで当社との縁をいただき、数年間は二足の草鞋を履いていました。しかしアメフトを引退する頃にはビジネスのほうがおもしろくなってきて、そちらに本腰を入れようと迷いなく決断しました。

門崎は岩手県産の黒毛和牛にまつわる多様な事業を展開する食品ベンチャー企業です。当初はマーケティングや人事の担当として入社しましたが、帰国後は店舗を見ていた時期もありますし、法務や法人営業を担っていた時期もあります。2024年からは経営層に入れていただき、現在は営業と人事領域を管掌しています。

最年少役員として心掛けているのは「発信力」です。社長の発信に対しても、臆せずに自分の意見や感じたことを積極的に問題提起するようにしています。オーナー企業なので、在籍年数が長くなるほど社長への敬意が増して意見を言いづらくなることがあるのかなと思いますが、まだまだ入社数年目の若手で、和牛という食材にも詳しくない人間だからこその忌憚のない意見を届けたいですね。

キャリアの意思決定と同様、できるだけ多くの選択肢から意思決定をしたほうが結論の精度は高くなるもの。企業にとって最終的にプラスになると思うことなら、言いづらいことでも言うべきだ、という信念もあります。実際に、テーブルにあらゆる選択肢を並べたうえで選んだほうがより良い意見交換になる、という実感があります。

業績は右肩上がりに成長していますが、昨年は財務状況を健全化するためのコストカットにも尽力し、精神的にしんどい仕事もありました。予算の使い方を見直すことを誓いつつ、改めて気づいたのは成果ベースで判断することの大切さです

成果が出なければ、どんなビジネスも継続はできません。一緒に仕事をし続けたい人たちがいるならば尚更、結果にコミットしてもらえるよう、ときに厳しくも導いていく必要があることを痛感しました。この経験を経て、現在は採用においても「当社は成果にコミットしていく企業である」ということを以前にも増して明確に提示するようにしています。

ルーツは家業。地場産業の維持・発展に興味があると気づいた

当社への入社を決めたのは、地方創生というテーマに興味があったことも大きな理由です。「アメフト選手としてのチャレンジと並行して、日米を行き来しながら仕事してOK」という条件を呑んでくれた幾つかの企業のなかでも、当社が目指している方向性には強く惹かれるものがありました。

当社は岩手県発の企業で、地域の産業をどう存続させていくかというところに重きを置いた事業展開をしています。私の実家は農業をやっており、販売力や後継がさまざまな理由で育たないために事業を続けられなくなる生産者たちをたくさん見てきました。そうしたバックグラウンドもあり、地方をどう強くしていくか、生産者をどう支援していくか、というテーマには常々興味を持っていたのです。この先、子どもたちの世代に日本で育った安全・安心な食材を残せるか、それとも海外産の食材が中心になるのか、日本の農業は今その過渡期にあるという認識です。

岩手に縁があったわけでも、牛肉に興味があったわけでもありませんが、当社で生産者をフォローする仕組みづくりに携わってみたい。「地方の食材を全国的に販売していく」という一つの成功パターンを作ることができれば、ほかの食材や他県の産業にも応用できるに違いない。そんな考えから、当社への入社を決めました。

まだまだ成長途上なので、まずは企業から求められていることをきちんと確認しながら、やれることを増やして力を蓄えることが目標ですが、将来的には地方が抱える課題解決に貢献していけたらと思っています。全国各地で課題を抱えている生産者さんたちに応用できるビジネスモデルを確立し、広めていくことが、今後のキャリアにおけるビジョンです。

ライバルの少ない時期に頑張っておけば後のキャリアがラクになる

これから社会に出る人たちには、早いうちにキャリアを意識して動くに越したことはないよ、とアドバイスを送りたいです。周りの人たちより早く頑張っておくほど、後のキャリアはラクになります。

受験でたとえるとわかりやすいかもしれません。高校受験組の人たちは大抵「エスカレーターで進学する人たちはずるい」と言いますが、エスカレーター組の人たちは、小学校受験や中学校受験にチャレンジし、ライバルが少ない時期に人より早く頑張っておいたからこそ後がラクになったわけです。親の方針が大きく影響しているとはいえ、同級生たちが楽しく遊んでいた幼稚園や小学校のうちに受験勉強をしておいたからこそ、先々の進学の権利を得られたのです。

キャリアもこれと同じです。人より早く頑張ってキャリアを安定させておけば、後がラクになります。パートナーや子どもなど人生で大切にしたいものができたときにも時間的・金銭的な余裕を手にしやすいです。大切なものができてから仕事を頑張ろうと思うと家族を不自由させることになり、結果的に人生の充実度は下がってしまうと思います。

人より早く頑張っておくと後のキャリアがラクになる!

私も学生の頃には「たくさんお金をもらえるなら、別に窓際社員でも良いか」という怠け心が頭をよぎったこともありましたが、この考え方ではダメだと気付くことができたからこそ、有意義な20代を過ごすことができました。この先のキャリアもまだまだ描ききれてはいませんが、これからも常に成果を出すことを追い求めていきたいと思っています。

まもなく30歳という時期になって改めて感じているのは、20代は気力も体力も充実していて自分のためだけに時間をめいっぱい使える貴重な時期なのだということです。20代のうちは未熟な社会人として周りの目もまだまだ優しいので、サボろうと思えばいくらでもサボれます。キャリアの方向性が定まっていない人が多く、ライバルも比較的少ないです。

そのような時期に上司が悪い、景気が悪い、企業の制度が整っていない、自分の能力を理解してくれない、活躍のチャンスが回ってこない等々、人や環境に言い訳をして頑張ることを怠っていると、そのツケは結局のところ自分に返ってきます。ダラダラやっても過ぎる時間は同じ。「どうせ働くなら、その時間を有意義なものにしよう」と前向きな気持ちでキャリアを歩み出してほしいと心から願っています

繁永さんが贈るキャリア指針

取材・執筆:外山ゆひら

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