言葉に体温を宿せ。赤提灯が照らした「改革」という人生への道筋

中広 代表取締役社長 大島 斉さん
Hitoshi Oshima・阪南大学経済学部卒業。2000年に中広へ入社後、2008年に執行役員に就任。その後取締役営業本部長、常務取締役営業本部長を経験した後、2022年より現職
原風景は赤提灯。震災の最中に見た言葉の力
1995年1月17日。忘れもしない阪神・淡路大震災の最中に見た一つの赤提灯が、私の人生の道筋を決めました。
震災が起きたのは1月の早朝。冷たい空気の中に家を失い、大切な人を失った人々が溢れ、誰もがどこを見れば良いかわからず下を向いていました。
私は当時大学生。大阪に住んでいたので大きな被害を受けることはありませんでしたが、大好きな神戸の街がなくなりすべてが失われてしまったような気分だったのを今でも覚えています。ボランティアとして現地に赴く度、甚大な被害を目の当たりにして気持ちが暗くなるばかりでした。
そんななか、被災した人々やボランティアへ向けて屋台が出るようになりました。赤提灯は、その屋台に吊り下げられていたものです。電気もなければ明日飲むものにさえ悩む壊滅的な状況で、それでも前を向いて進んでいかなければならない。そんな私たちにとって、ほのかに灯る赤提灯は希望の光でした。灯が2つ、3つと増えていき、同時に人々の表情に明るさが戻っていく。その光景が目の奥に焼き付いています。
私たちを励ましたのは、それだけではありません。徐々に目にするようになった広告が、復興へ向けて前に進んでいこうとする人々の背中を押しました。震災によって色を失った街に言葉が行き交い、その温かく、強く、温度を感じる言葉に多くの人の心が動きました。広告を通して誰かが被災した人々へエールを送り、支えになろうとしている。その温かさと、言葉にして伝える大切さに改めて気がついたのです。
このときから、「広告の力で日本を元気にしたい」という明確なビジョンができました。広告にはそれほどの力がある。そう信じているからこそ、ビジョンがすべての原動力になっています。

モチベーションの根源は「渇望」にある
新卒で中広に入社してから今までキャリアを歩んできましたが、軸に据えていたのは「広告で日本を元気にしたい」というビジョンです。挫折を経験しながらもモチベーションを高く持ち続けられたのは、この軸があったからこそだと思っています。
たった一つの軸が原動力となり得る理由。それは、ビジョンの実現を心の底から渇望しているから。
お腹が空いている状態と同じ原理で考えるとわかりやすいでしょう。お腹が空けば、多少面倒に思ったとしても何でも良いから食べるために行動を起こしますよね。お腹が空いていればいるほど、行動への意欲・熱量は高まるはずです。
大切なのは「どうしてもこうしたい」という強烈な望みを抱くこと。心の底から渇望するものがあってこそ、人は突き動かされるものです。
とはいっても、そもそも行動につながるようなモチベーションがないという人もいるかもしれません。そんな人にまず知ってほしいのは、モチベーションは行動なしに湧いてくるものではないということです。
「ジムに行こう」と考えたとして、待っていれば自然にモチベーションが湧いてくるわけではありませんよね。多少億劫でも実際にジムに行ってみて初めてやる気が出てくると思います。1日頑張ればもう1日、体に変化が現れればもっと、と行動量に比例してモチベーションは上がっていき、次第にモチベーションの高さが行動を促していくようになります。
行動がモチベーションに結びつくまでは、とにかく無心で実行すること。面倒なことの第一歩こそ無心で踏み出すのが良いでしょう。行動を起こせば8割成功したようなものです。
私のモチベーションであり行動力の源泉は「日本を元気にしたい」という強烈な思いで、その熱量は今もなお褪せることがありません。絶対に日本を元気にしたい。そして次の世代に、日本を今以上に元気にした状態で渡したい。それが、今の私の渇望するものでありモチベーションの源です。
「なる」と決めれば必ずかなう。希望実現のセオリーは逆算で生きること
「日本を元気にしたい」と聞くと、途方もなく実現困難なことに感じる人も居るかもしれませんね。それでも、私は達成できると本気で信じています。そうして「なる」と決めてさえいれば、必ずかなえることができるからです。
この考え方の背景にはもう一つの原体験があります。それは幼い頃から習っていた空手です。父が空手の師範で、2歳半から18歳まで習っていました。当時はひたすら「空手で強くなるんだ」ということばかりを考えていました。
「強くなる」という明確な目標があるなら、あとはすべて逆算で考えれば良いだけのこと。人は1日に約3万5千回の選択をしていると言いますが、そのすべての選択の際に「空手で強くなるためにはどれを選べば良いか」という基準で考えれば良いのです。「体作りがしたいから今すぐ寝る」「左手を鍛えたいから左手で歯を磨く」そんな小さな選択を積み重ねていくだけで、希望はかなえることができます。
この理論については、私自身が空手を通して実証してきました。むしろ空手で勝ちたいがために行動した結果、自然とこういった考えが身に付いたというほうが正しいですね。
とはいっても、振り返れば圧倒的にうまくいかないことのほうが多かったと思います。空手で負けてしまうことももちろんありました。ただ、そこで勝ち負けが決まるわけではありません。そのときの負けは、あくまで勝ちにいたるまでの通過点でしかないからです。むしろそこで失敗できたおかげで気づけたこともあり、また一歩勝ちに近づいたと考えていました。
目標達成のためには、質より量。この考えは絶対的なものだと思っています。人より一度でも多くの失敗を重ねましょう。重ねた失敗の数だけ、それよりも大きな成功に近づいているはずです。
「強烈な共鳴」が生じる場所に理想のキャリアがある

学生の皆さんが「かなえるべき希望」として掲げるなら、まず就活の成功であるという人も居るのではないでしょうか。一方で、「行きたい会社がない」といった悩みを抱える学生が多いのも事実。そもそも目標が立てられない人も居るかもしれませんね。
「自分は何がしたいのだろう」と考えて、はっきりとした答えを出すのは誰しも難しいものです。ましてやまだ働いたことがないならなおさら。最初から答えを出そうとせず、まずはいろいろな会社をリサーチして社長やそこで働いている人の言葉に触れるのがおすすめですよ。彼らの言葉を聞いてワクワクしたり、「楽しそう」「気になる」と思えるところ、いわば自分の価値観に「共鳴」する会社を探してみてください。
ほかならぬ私自身も、共鳴する会社に入社をしました。中広との出会いは、先代の社長であり現会長の後藤が執筆した書籍。偶然にもその本を先輩が持っていて、「大島君が好きな考え方だと思うから読んでみて」と勧めてくれたのがきっかけでした。
「中広は、日本の広告代理店として4社目の上場企業となることを目指している。この大きな目標を一人で達成することはできないので、一緒に上場させてくれる仲間が欲しい」
そんな言葉が、強く胸に刺さりました。「中広を上場させるのは自分だ」と、ビビッと来たんですね。世の中にあふれる「思い」のこもっていない文字や数字からは決して感じることができない温度が、私の心を強く動かしたのです。
ファーストキャリアを選ぶ際には、そのように自分の価値観と強烈に共鳴する会社を探してみてください。会社で働く人の言葉は、その会社の内部のありようを映し出すもの。心が震えた言葉がある環境こそ、あなたが心の奥底で欲している環境に近いものなのではないかと思います。
成功は違和感に宿る。身の回りの改革を重ねていこう
自分の心と強烈に共鳴する会社に入社したとしても、100%うまくいくとは限りません。どんなに会社が良い環境だったとしても、ほかの要因でうまくいかなくなる可能性はいくらでもあります。そのようなときは、ほかの道を選ぶのも良いでしょう。
そこでおすすめしたいのは、自分自身が「改革者」となる考え方です。不満があるなら自分が変えれば良い。そんな思いで会社に向き合ってみるのも、一つの手ではないでしょうか。むしろ、今の時代はそういった人材が強く求められているように思います。
改革というと大げさに聞こえるかもしれませんが、たとえばゴミ箱を1つ増やすだけでも立派な改革です。むしろ「ゴミ箱を増やしたほうが良い」という視点を持てる人にこそ、会社を変える力があると思っています。そういった意見は往々にして「組織を良くしよう」という思いによって生じるからです。
ゴミ箱を増やせば、ゴミを捨てる際の動線が良くなる。多くの人の動線が改善されれば一人ひとりの業務効率が上がり、結果として全体の生産性が上がる。一見小さなことのように思えるかもしれませんが、一つの改革が起こす効果は想像よりも大きいものです。小さなことの積み重ねは、必ず大きな改革につながります。

たとえ小さな変化であったとしても、改革を起こすのは簡単なことではありません。大切なのは習慣にすること。ぜひ学生のときから、何か改革できることはないか、今の状況をもっと良くする余地はないかと、意識的に周りを見てみてください。そうした視点を今のうちから養っておくと、社会人になってから実践しやすいですよ。
思いは熱伝導を起こす。失敗を成功への布石にする在り方
これまでのキャリアを振り返った時、常に何かしらの改革を重ねてきたように思います。それはひとえに、移り変わりが激しい現代のなかでも変わらず「広告で日本を元気にする」というビジョンを持ち続けるため。変わらないために変わり続けてきました。
その最たるものが、中広が上場してからの出来事です。念願がかない2007年に中広が上場したときには、涙を流して喜びました。しかし翌年にリーマンショックが起こり、世の中の姿が一変してしまいます。
当時は世の中の広告が次から次へとなくなっていくような大不況。現場責任者を務めていたので、2年連続で赤字となってしまったときには大きな責任を感じました。
それでも私自身の認識としては、これも勝ちにいたるまでの過程。失敗を糧にして次の行動を起こせば良いだけの話でしたが、周囲はそうではありません。明らかに広告の価値が下がっていくなかで、誰しも仕事に前向きにはなれないでしょう。
このままでは、日本を元気にすることなど到底かなうはずもありません。危機を乗り越えるには、周囲の意識から改革を起こしていく必要があると判断しました。
このときも、私が信じていたのは言葉の力。ひたすら周囲の人に「この壁は超えられる」「勝つための布石にしていけば良い」と伝えていましたが、当初の周りの反応と言えば「暑苦しい」「全員が自分と同じ考えを持っていると思うな」というもの。今考えれば当然のことかもしれません。
しかし、人の思いは熱伝導を起こすものです。誰か一人の熱意は、必ず隣の人間に波及していく。その瞬間を信じて、まずは隣の席で仕事をしている人にひたすら語りかけました。根気強く伝え続けた結果、次第に同じ方向を向いてくれる人が増えていったのです。

結果として業績は黒字に戻り、現在にいたってはハッピーメディア(中広が発行する地域情報誌)の発行部数が2025年の10月時点で累計1,200万部を超えました。また当時は5誌ほどしかなかった雑誌数も、現在は176誌にのぼります。「紙のメディアなんて誰も見ない」と言われている昨今では非常に大きな業績です。
壁は、前に進んでいなければ現れないもの。目の前の困難は、着実に前進しているということを証明しています。その壁が高く、困難が大きければ大きいほど乗り越えたときに得るものは大きいはずです。
皆さんも、これから社会に出たときにたくさんの壁に突き当たると思います。そのようなときは、まず第一に「逃げていない証拠だ」ということを思い出してください。その壁を乗り越えた時、あなたはこれまでにないほど成長した姿になっているはず。その瞬間を目指し、どうかあきらめずに進み続けてほしいです。

取材・執筆:瀧ヶ平史織
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