熱中こそがキャリアの糧になる。「80億人の中で1位」になれることを見つけよう

インゲージ 代表取締役社長 和田 哲也さん
Tetsuya(Ted)Wada・学生時代からコンピュータに興味を持ち、新卒でゲーム業界のソフトウェア開発に取り組む。転職をしながらエンジニア、マネージャー、海外勤務などを経験し、多くの企業が抱える「コミュニケーションの非効率さ」を実感。課題を根本から解決するために2014年にインゲージを創業し、以降現職
コンピューターの歴史とともに歩んだ学生時代
初めてコンピューターに出会ったのは中学生のときのことでした。
電子工作に興味があったので、「ラジオ木工部」という部活に所属していました。その名の通り木製のテーブルや椅子を作ったり電子工作をしたりしていたのですが、ある日部室に行くと先輩が「ワンボードマイコン(むき出しのプリント基板に電子部品や最低限の入出力端子を付けた状態のもの)」をいじっていたのです。
PCを使うのが一般的な現代からは想像しにくいかもしれませんが、これが最初に見た「コンピューターを使う人」の姿でした。
それからはずいぶんとのめり込み、電子工作系の雑誌を読んでは自分でもはんだごてを使ってワンボードマイコンをいじるように。これが中学生までのコンピューターとのかかわり方です。
次の転機が訪れたのは、高校生の時。その頃はちょうどファミコンが登場したころで、あっという間にゲームにはまっていきました。次第に勉強に意識が向かなくなり、進学先を考えたときに選んだのは何もしなくてもある程度できた数学と物理で受験ができる私立理系の大学。とはいえ結局勉強せずに受けたら全然だめで(笑)、一浪を経て進学をしました。
その大学のゼミ室で今のキャリアに直接つながる「インターネット」に出会い、足繁く通うことになります。
ちなみに当時のインターネットは今のように自由に何でも検索できるものではなく、大学間をつなぐネットワークでしかありませんでした。私はそのネットワークを活用していたわけではなく、目当てはネット通信に使用していた電話回線。当時はネットを電話回線でつないでおり、それを自宅で使うとお金がかかるので大学の回線を使ってパソコン通信をし、ゲームをしていました。
当然教授にはよく怒られたのですが、今思えばこれらの経験がすべて今のキャリアにつながっています。

限りない熱量が糧になる。ゲーム業界への挑戦を後押しした熱源
そのように好きなことにのめり込んだ学生時代を過ごしましたが、大学3年生になれば就職のことを考えなければなりません。ただこれといってキャリアに対する希望もなく、強いて言うなら「どうせやるなら好きなことがしたい」というくらい。それでゲーム業界を目指すことにしました。
今でこそゲーム業界は学生に人気の就職先ですが、当時はまだまだ黎明期。教授にも「そんな業界で大丈夫なのか」とかなり心配されました。将来性がないのではないか、長時間労働や体力勝負であるがために、30代が体力的な定年になるのではないか──今では信じられないかもしれませんが、ゲーム業界に対してそんなふうに考える人がとても多かったのです。
しかし、当時の私は「絶対にゲーム業界には未来がある」と信じていました。こんなにもたくさんの人がのめり込んでいるものが廃れるはずがない。何より、コンピューターの可能性はすごい。確実に発展していくはずだと確信していました。
とはいえ、ゲーム業界への就職は簡単なことではありません。そこで就職までの1年半をかけてとにかくプログラミングの練習をしました。
当時はまだプログラミングを学ぶ手段が限られており、書籍を読み込むくらいしかなかったのですが、それだけでは時間のないなかで習得をすることはできません。そこで自分の好きなゲームの中身を解読してみようと思い、ゲーム内部のコードの解析を繰り返しました。
結果としてある程度のプログラミングスキルが身に付きましたし、その熱意が伝わったのか、志望企業への入社を果たし配属先までも希望をかなえることができました。
この話をすると、よく「すごい熱量ですね」と言われることがありますが、何も私だからできたというわけではありません。誰しも好きなことに熱中して時間を忘れたり、気づけば一晩中何かをしていたという経験があるのではないでしょうか。
たとえば一人でスケッチブックにひたすら絵を描き続けること、練習のために壁にボールをぶつけ続けること。私の場合はゲームでしたが、これらは等しく熱源に突き動かされての行動であり、私が就活時代にやっていたことはその延長です。
好きなものに対して最大限の熱量を発揮して取り組むというのは誰しもできること。どのようなことでも良いので、そんな経験をしてみてほしいと思います。その時間は、必ずあなたにとって「何か」につながるはずです。
たとえば将来のキャリア、自分を励ましてくれる思い出、忍耐力などの力、人との出会い。どんな形になっても、必ず将来の自分の糧になるはず。ぜひ学生のうちに何かに熱中する経験をしてみてほしいですね。

「恥」こそが成長曲線を押し上げる
皆さんのなかには、強烈に熱量を傾けられるようなものと出会えていない人もいると思います。現代においては、それも仕方のないことなんですよね。今は情報に溢れていて欲しいものの多くは比較的簡単に手に入りますが、そういった環境下では熱量は育ちにくいと常々感じています。
というのも、熱量が育つ過程には多くの場合「不便」「できない」といった感情がセットになっているから。何かがしたい、でもできない、できるようになるためにはこれが必要、それができるために何かに取り組む。そのサイクルがあってのめり込み、夢中になっていくのだと思います。
ゲームでたとえるとわかりやすいですが、簡単にクリアできてしまうものよりクリアまで一定の要素や時間が必要だったり、クリアできるかできないか、というところまで白熱できるもののほうが楽しいですよね。
そしてその過程を経ないと、何事もステップアップしていくことはできないと思います。クリアするための準備と、試行錯誤と、挑戦。これがあってこそ熱中でき、熱中の先に成長があるのだと思います。

では、いかにして夢中になり、成長につながる経験を手にするのか。一番簡単なのは、恥をかくことだと思います。恥をかくと「もう同じ経験はしたくない」と頑張れますよね。何より、恥をかくことの手前にあるのは多くの場合チャレンジだったりします。
たとえば人前で何かを発表したり、知らない国に行ったり、初めての環境に飛び込んだり。こういったことには、「恥ずかしい」という感情がつきまといがちではないでしょうか。その恥ずかしさを感じたときこそ、成長のチャンス。
私の場合は、英語の勉強でした。社会人になってから英語を学びはじめ、実践の機会を得るために街中で困っている海外の人を見つけては話しかけていました。
もちろん恥ずかしいです。知らない人に拙い英語で話しかけるのは緊張しますし、うまく伝わらなくて大笑いされたこともありました。しかしそれこそが一番の学びの近道だったと今でも思います。
路上で歌を歌っている人、街中を奇抜な格好で歩く人。「勇気あるな」と思える行動ができる人の裏には、恐らく「何かを得た」という経験があり、それが糧になって次のステップにつながるのだと思います。ぜひ何でも良いので、「恥」に立ち向かう経験を積んでみることをおすすめします。
「世界中の人と話したい」ブレない思いが導いたキャリア

英語学習について、ここにも私の核となる価値観が結びついてきます。
そもそも英語の勉強を始めたのは、「話すこと」が学びになると感じたから。これがなかなか、自分の中では衝撃的な体験だったんですよね。
きっかけは、新卒で入社したゲーム会社での出来事。当時は人事部の部長がとにかく怖くて、萎縮しながら「どうしてこの人はこんなに恐ろしいんだろう」と日々疑問でした。それを先輩に話してみた時、「あそこでああいうふうに言わないと、皆気がつかないからだよ。理解度はそれぞれ違うから、その足並みをそろえるためにも、厳しく言わないといけないシーンがある」と教えていただきました。
そのとき初めて「会社の中にはいわゆる『悪役』がいるのか」と気づきました。あえて厳しい言葉を選び、嫌われることもいとわず組織のために発言する立場を取っている人がいることを、知らなかったのです。
この体験は今でも鮮烈に覚えていて、何事も一方向から見てはいけない、ちょっと立場を変えてみれば今まで見えていなかった部分に簡単に気づくことができるのだと体感しました。正直、私は自分の中に「これが正しい」という確立した考え方を持っている人間だったので、そのときの衝撃がいっそう大きかったのだと思います。
それ以降も、あるときは人づてに、あるときは自分から話を聞きに行って、「コミュニケーション」で何かを変えようとしている人の姿をたくさん見てきました。それは紛れもなく価値観を変える大きな学びであり、人の考えを知れば知るほどわくわくしました。なんというか、自分になかった視点を知るたびに脳みそが大きく広がって、自分の世界すらも広がっていく感覚がしたのです。そのときの高揚感と言えば、ときめきに近いものがありました。
もっとときめきたい。もっと色んな人の考えを知りたい。自分と同じ価値観でなく、違った考えを持っている人、異なる文化の中で育ってきた人──世界中の人と、話したい。
それが、英語学習を始めるきっかけでした。
相手を認め、尊重する。アメリカで学んだ価値観のあり方
せっかく英語を使えるようになったので海外で働きたい、と志した結果、ゲーム会社を退職した後海外展開している企業へ就職し、約10年間アメリカで働く経験を積むことができました。それこそ帰国後に「海外の文化は日本に活かせる」とインゲージの設立を決意するほど、非常に大きな学びがありましたね。
そのなかでも、今でも思う最大の学びは「価値観の違い」。とにかく海外では「相手を認める」ということをすごく徹底していたんです。
その一つの例として、海外で出会った同僚が教えてくれた「I am an important person.(私は重要な人物だ)」と書いた鉢巻きを巻いてコミュニケーションを取る研修の話があります。話をしようと思えば必ずその文字が目に入るので、「相手を尊重しよう」「自分にとって重要な人物だと思って接しよう」という意識が自然と生まれるとのことでした。
ほかにも海外で働くなかで社長と従業員4~5人でランチに行く機会があったのですが、社長が「この間見たこの映画がおもしろかった」という話をした時、ほかの従業員が「自分はそうは思わなかった。あの映画はおもしろくなかった」とかなりはっきり口にしたのです。
社長にこんなことを言っては失礼ではないか? と思いますよね。しかし社長は一言「そうなんだ。私にとっては、この辺りがおもしろかったんだけどね」と笑顔で返していたのです。これはなかなか衝撃でした。
価値観は違って当然。そこに年齢や立場は一切関係がなく、相手に否定されたとしても別に何とも思わない。そんなフラットな接し方を自然とできることが、私にはとても刺激的で、忘れられない経験です。
このときの価値観の変容は確実に今でも自分のなかに根付いています。一番大きな変化は、否定されても嫌な気持ちになったり、悲しく思ったりすることが少なくなったことです。
また、アメリカは貧富の差が大きい国です。それでも幸せの在り方は人それぞれで、お金を持っていなくても幸せそうな人もいれば、逆にお金をたくさん持っているのに不幸に見える人もいます。その様子を見ていると「どんな環境下であれ、自分の考え方一つで不幸にも幸せにもなれる」とつくづく感じました。
自分には自分にしかできないことがある。今この世界には80億人もの人がいますが、そのなかで一番だと言えることは必ずあるものです。それが見つかれば、きっとどんな環境でも、どんな世界でも希望は実現できるのだと思います。
伸びしろ=強い想い。自分にしか語れない人生を見せよう
とはいえ、就活という特殊な環境下ではつい自分と他人を比較してしまったり、冷静に判断ができなかったり、ときには本当にやりたいことを忘れてしまうこともあるでしょう。そしてその迷いが、うまくいかない結果に結びついてしまう──そんな悪循環に陥ってしまうということがよくあります。
そうして気がつかないうちに、やりたいことよりも「内定」に執着していた、なんてこともあるかもしれません。
そうならないためには、まず自分のやりたいことを見失わないこと。とにかく振り返ることを大切にしてください。まさに今就活をしている最中なら、「本当は何をやりたいんだっけ?」ということを逐一言葉にすることが大切だと思います。
私たち企業が新卒の皆さんに一番期待しているのは「伸びしろ」。伸びしろとは、つまり「想い」です。この企業でこれがしたい、こんな人生を歩みたい、こんなふうに輝きたい。そんな想いを聞きたいと思っています。
教科書通りの良いことを言える人ではなく、その人にしかない経験と、その経験から生まれた考えを言語化できること。それが、魅力的な学生に共通する点ですね。特に恥ずかしかった経験や、失敗談を話してくれると俄然興味が湧きます(笑)。
就活という場で恥を隠しても仕方がありません。その恥を丸ごと肯定してくれる企業に就職することこそ、自己実現への近道。人には言えないことをどんどん言ってしまえば良いと思います。ぜひ私も、そんな学生とお話がしてみたいですね。

取材・執筆:瀧ヶ平史織
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