自分の想いを見つめながらキャリアの選択を|仕事とは人間性を磨くもの

ふらここ 代表取締役 原 英洋さん

Hidehiro Hara・1963年生まれ。人形師の家系に生まれ育つ。大学卒業後、大手出版社に入社。その後、家業を継ぎ、人形づくりの道に進む。専務取締役として経営に従事。2008年にふらここを創業し、現職

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突然、人形師の家業を継ぐことに。“想い”に立ち返り、仕事への姿勢が変わった

私は人形師の家系に生まれ育ちましたが、最初から家業を継ごうと思っていたわけではありませんでした。

学生時代は文章を書くのが好きで、大学の機関誌に投稿し、何度か取り上げられたことも。いつしか作家になることを志すようになり、新卒で大手出版社に入社しました。

しかし約2年後、父が病気で他界し、家業を継ぐことになったのです。それは突然の出来事で私にとって望んでいた道ではなかったため、最初は大きな戸惑いがありました。

入社後まずは、社員として店舗で販売を担当しました。その間も気持ちの切り替えができず、嫌々ながら仕事を続ける日々。いつ辞めるかどうかまで考えていました。このままではだめだと思い、自分のキャリアに対する思いを振り返ってみたのです

そもそもなぜ作家になりたいと思っていたのか。それは、自分の文章を読んでもらうことで、多くの人の心を豊かにしたり、癒したかったからでした。その思いを、今の仕事で実現できないだろうかと考えたのです。

祖父の代から両親に引き継がれていた作風は、とても可愛らしい顔をしたお人形。このお人形を通して、人々を笑顔にしていくことができると確信しました。そこから仕事に対する向き合い方が一変し、やりがいや喜びを感じられるようになったのです。

皆さんも、もし仕事に対して違和感を覚えたときは、まずはご自身が仕事で実現したいことに立ち返り、それを上手く反映できないだろうかと考えてみてくださいね。

人形づくりへのこだわりを諦めず、起業を決意

店頭で接客を続けるなかで、20年ほど前から、お客様の客層やニーズの変化を感じるようになりました。以前は祖父母にあたる方が孫に贈るために来店されることが多かったのですが、次第に生まれたばかりの子供を抱いた母親が来店されるケースが増えたのです。

それに伴い、伝統的なお人形のお顔よりもさらに可愛らしい、赤ちゃんのような顔が好まれるようになっていくのを感じました。

私は職人さんに「今のお客様が好むものに変えていきませんか」と声を上げましたが、伝統的な文化が重んじられる人形業界では簡単なことではありませんでした。

そこで独立をして、思い描いたこだわりを実現していこうと決意。2008年、ふらここを創業しました。

実際に母親世代に好まれる赤ちゃん顔のお人形を作って販売したところ、多くのお客様に愛され、すぐに完売。今では毎年、約1,000人の方が翌年までお人形を購入するために待ってくださるようになりました。独立してからの地道な努力が報われた出来事の一つです。

また、仕事において大切だと思うのは、人間的に成長していくことです。お客様からの要望や、仕事仲間との人間関係、目の前にある課題など、一つひとつの出来事に向き合うことで、人間性が磨かれていきます。

さらには、お客様にさらに喜んでもらえたり、社内での昇格や昇給につながったりと、自分にとって励みになる結果も付いてきます。それらの目にみえる成果は、前向きに仕事に取り組むうえで重要なのではないでしょうか。

きっと学生生活での部活動や勉強など、ご自身が関心を持った何かに対して、打ち込んできた経験がある人もいらっしゃると思います。それは社会に出てからも必ず役立ちます。目の前の出来事に対してしっかり向き合うという姿勢は、結果や成長につながります

今までにそのような経験がないという方は、就活でも良いと思うので、物事に向き合う経験を積んでみてくださいね。

仕事において充実感を感じるのは、やはりお客様に喜んでもらったときです

私は「お客様に喜んでもらえる人形づくりをしたい」という一心で独立し、経営に携わってきました。最初こそ、売上を伸ばすことを重視していた時期もありましたが、次第にお人形を通してどれだけお客様に喜んでいただくか、という意識が強くなりました。

お客様に喜んでいただいた分だけ、対価としてお金をいただいているという視点をもつようになったのです。その姿勢がお客様にも届いたのか、毎年多くの感謝のメッセージをいただいています。

特にお母様からは、「育児に追われて大変ななかで、お人形をパッと見たときにいつも癒されています」「おかげ様で心が和んでほっとしています」といった言葉をいただくことが多いです。そんな時、この仕事をやっていて良かったと心から思いますね。

また、今後もお客様に愛され続けるお人形を提供し、持続可能なビジネスにしていきたいと考えています。そのために、今までと同じことをし続けるのではなく、お客様の変化に合わせて、柔軟にものづくりを変えていくことを大切にしたいです。

原さん流 仕事のポイント

  • 仕事を通して人間的に成長していく

  • 何よりもお客様に喜んでいただく

  • 自分の想いやこだわりを抱き続け、実現していく

転職ありきではなく、長い目で見て企業選びをしよう

企業選びにおいては、給与や休日などの条件面も大切ですが、「自分がその会社で活き活きと仕事ができるか」「自分の可能性を発揮できる場所なのか」という視点ももっておきましょう。

というのも、最初に長く続けられそうな会社を選ぶのが重要だからです。自分に合った環境に腰を据えて仕事に向き合うことで、人間的に成長していくことができます。

一昔前は、新卒入社した会社に一生勤めるという、終身雇用の考え方が中心でしたが、今は転職することも当たり前になってきています。

こうした風潮のなかで、「嫌だったら転職すれば良い」という安易な考えがあると、なかなか自分自身のスキルが身につかないと思います。そのまま人間的な成長も制限されてしまうのは、とてももったいないです。

置かれた環境のなかで、どれだけ仕事に打ち込めるのかというのが、長い目で見たときに成長につながり、人生が豊かになっていくはずです

もちろん、仕事をするなかで自分のやりたいことが見つかったり、どうしても職場環境に耐えられなかったりした場合、転職は最適な手段だと言えます。

ただ、同じ転職をするにしても、前職で頑張っていたのか、そうでないのかというのは、転職の内容や今後のキャリアにも影響します。まずは与えられた環境で力を尽くすことを意識しながら、仕事やキャリアの選択をしてみてくださいね。

自己分析においては、「自分は何が好きなんだろう」「得意なことは何だろう」と、一度突き詰めて考えてみるのがとても大切です。ぜひ一度、紙に書き出して整理してみてください。

特に短所よりも長所に目を向けましょう。自分の良いところをしっかり認識して、それを発揮しやすい企業を探すと、ピンとくる企業に出会えるはずです。

経営者の想いや意志は、社員一人ひとりに反映されているもの。これは大企業でもベンチャー企業でも言えることで、経営者と社員は鏡のような関係性です。

最終的にいくつかの企業に候補が絞られたら、できれば各企業の社員さんに直接会って話を聞いてみましょう。ぜひ社員さんに「どういう気持ちで働いているのか」を聞いてみてください。それだけで経営者のスタンスや会社の雰囲気など、色々な面が見えてきます。

今までの自分に、自信をもって就活に臨もう

就活におけるマインドとしては、まずは自信をもって臨んでもらいたいですね。とはいえ、就活中は社会に初めて出るタイミングですし、自信をもつのが難しいと感じるかもしれません。

しかし、今は何も分からなくて不安だとしても、今まで生きてきた人生の中で、誰もが何かしらやってきたこと、経験したことがあります。人と比較して「たいしたことではない」などと思わず、オンリーワンの特別な人生経験に自信をもってください。あとは会社に対して、頑張りたいという意志や想いがあることを熱意をもって伝えることに尽きます。

たとえ面接で質問に上手く答えられなかったとしても、「この人は一生懸命伝えているな」「誠実な人柄を感じるな」という部分はとても大きいです。面接では、ぜひありのままのご自身で、自分を表現してみてください。

そして、社会人になってからも、何事にも一生懸命取り組む人というのは周りから求められます。

人間なので失敗やミスをすることもありますが、そういう人は周りが気にかけてくれたり、教えてくれたりとサポートされやすいです。

さらに、成長できるチャンスや機会を用意してもらえることも増えます。自分なりに仕事に向き合って全力を尽くす姿勢を大切にしてくださいね

やはり就活はとても大変なもので、自信を失くしてしまうこと、嫌な思いをすることもあると思います。

そんなときは、一人で悶々と考えるのではなく、社会人の先輩や、就活中の仲間に相談したり、仕事やキャリアに関する本を読んだりと、気分転換をしながら視野を広げてみてください。

諦めずに就活に向き合うことで、ご自身の可能性を活かせる場所が必ず見つかり、道が拓けていくはずです。

取材・執筆 志摩若奈

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