「客観視点」こそが社会での活躍を左右する|個性・忍耐・人脈を掛け合わせて築いたキャリア

TBJ 取締役 兼 グループマネージャー 坂田 賢さん
Ken Sakata・青山学院大学法学部を卒業後、1994年博報堂へ入社。2006年6月にリヴァンプに転職したのを皮切りに、『カフェ・カイラ』、『SWEET XO』などの海外のスイーツやレストランブランドのトレンド仕掛け人として活躍。2023年からはメキシカン・ファストフードのブランド『Taco Bell(以下、タコベル)』を日本で展開するTBJに入社し、以降現職
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若い頃はとにかく「なんでもやる」。結果を出すことへの覚悟を決めた
初めて自分のキャリアについて考えたのは、大学生の頃です。といっても大層なものではなく、ミーハーな性格から「有名人と仲良くなれるマスコミやメディアの仕事がしたい」という希望を持ちました。就職活動ではTV局や広告代理店などを幅広く受けて、内定をいただいたのが広告代理店です。
華やかな世界への期待に胸を膨らませて入社したものの、入社後はすぐに業界文化の洗礼を受けました。30年前の広告業界には独特の業界文化があり、詳細は省きますが、入社後1週間で「こんなことをやらされるのか」と涙を流すような出来事を経験しました。今の学生の皆さんには想像もできないと思いますが、コンプライアンスなど誰も気にしていない時代であり、業界だったということです。
しかしそこで「自分には無理だ、辞めよう」という結論には至らず、サバイブするために空気を読んで、業界文化に適応するという選択をしました。嫌な目に遭っても「沈黙は金(黙ってやり過ごすことで好転する)」だと言い聞かせましたし、何も成果を残さずに辞めるものかという反骨心から「石の上にも三年」「虎穴に入らずんば虎子を得ず(=大きな危険を冒さなければ、大きな成果は得られない)」ということわざを頭の中で繰り返していました。負けず嫌いで逃げ出したくなかったのだと思いますし、忍耐力はもともとあるほうでした。しかし、何よりも自分を突き動かしたのは「ここでやってやる」という覚悟です。
今振り返っても、覚悟を決めたことは正解だったと思います。若い頃は大した仕事ができるわけではないので、「できること何でもやります!」という姿勢でなければ成長はできないからです。やる気だけでは不十分で、受け身に徹して「これがやりたい」ではなく「自分に何ができるか」を考える。嫌なことがあっても我慢して、とにかく“結果”にコミットする。「ここで結果を出すぞ」という覚悟を持てるかどうかで、その後のキャリアは変わってくると思います。

これから社会に出る人にも「忍耐」と「覚悟」を持つことの重要性を伝えたいですね。もちろん何がなんでも逃げ出してはいけない、という話ではありませんし、体力も人それぞれ違うと思います。私は体を鍛えることが好きで、今からでも商社に入れるくらいには体力に自信があるので(笑)、運良くハードな業界を乗り切れたのかもしれません。
それでも自分が本当に限界だと思うまでは、縁あって入社した企業で粘り続けてみたほうが良いと思います。仕事のつらさは人間関係に起因することも多く、上司が変わったら解決したなんてことも往々にしてある話です。若いうちはいろいろな会社をあちこち見て歩いても良いでしょうが、キャリアのどこかでは腹を括らないと、永遠に「ここじゃない」と言いながら、成果が出ないまま転職を繰り返す人生になってしまいかねないことは、心しておくと良いと思います。
出向先で得た海外駐在のチャンスがその後のキャリアの礎に
入社3年目にはNTTグループの広告会社・NTTアドへの出向を経験します。ここがキャリアにおける最初のターニングポイントです。出向先では1997年3月にスタートした日本語検索エンジンサービス「goo(グー)」の立ち上げに際し、インターネット広告の部門の業務を担うことになりました。
ここでの仕事には、思いのほかハマりましたね。大手広告代理店2社からのメンバーを含めた5名ほどのチームで、少数でテンポ良く仕事を前に進めていけるベンチャー企業のような環境が性に合っていたのかもしれません。
独立願望が芽生えたのもこの頃です。もともと会社の看板で仕事をするのが好きではなく、20代の頃から、合コンで会社名を鼻高々に語るような社会人を見ては「自分は会社の看板で勝負するような人間にはなりたくない」と常々思っていました。
売上を50億円に伸ばした功績を認められ、29歳になる頃には30名ほどの部下を見るグループリーダーを任せてもらえることに。英語が割と得意だったので、1年間ニューヨークに駐在するチャンスもいただきました。現地では店舗開発事業などにも携わり、この時期に海外で培った人脈や浴びてきたカルチャーは、「海外ブランドの日本進出にかかわる」というその後のキャリアの礎となっています。一定期間、海外に出てみたことで、日本の良さや特徴もよくわかるようにもなりました。

実際にそのチャンスが巡ってきたのが、出向先で9年ほど経った頃です。そのときの人脈が、今のキャリアでも活かされています。
「語学力も活かせるし、執行役員の待遇で、しかも外の世界を見られるなんて最高じゃないか!」と思いましたし、ドメスティックなビジネスではなく、グローバルな発展性を臨めるビジネスに大いに魅力を感じて転職を決意。クリスピー・クリーム・ドーナツの日本進出にかかわることになりました。
「日本上陸」に次々とかかわった30〜40代。集大成は世界を見すえたビジョン
2社目では広告代理店で培ったネットワークや広告手法を活かして、一大ブームを作り出すことに成功。行列ができるドーナツ店としてメディアを賑わせ、100店舗を目指して全国進出を開始しました。
3社目に移ったきっかけは、「海外のレストランブランドを一緒にやろうよ」とまた別の方から声をかけてもらったことがきっかけです。ハワイアン・パンケーキでも有名な『カフェ・カイラ』の日本上陸に数年ほど携わった後は、ハワイアン・パンケーキブランド『moena cafe』を日本及びアジアにローンチさせました。
オーナーとのご縁もあり、2023年から当社に来ています。
50歳を過ぎたこともあり、これまで経験してきたマーケティングやブランディングのノウハウをすべてタコベルに注ぎ込み、キャリアの集大成として成功させたいというのが現在のビジョンです。タコベルはアメリカを中心に7,000店舗以上を展開している世界的なファーストフードチェーンですが、日本ではこれからという状況です。日本の食文化やコンテンツとも融合させたオリジナルのやり方で、将来的にはアジア地域にも展開していきたいと思っています。
個性と人脈が掛け合わされば唯一のキャリアが生まれる
20年ほど前に知人に声をかけてもらって以来、長らく食分野のマーケティングやブランディングに携わってきましたが、「食」と「ファッション」が私の二大関心分野です。一時期はニューヨーク発祥のアパレルブランドの日本展開に携わった時期もありますが、食分野のほうで成果を残すことができ、現在のキャリアに至った次第です。
ブームやトレンドを仕掛けることには自信がありますが、いろいろな企業から声をかけてもらえたのは、ひとえに人脈を大切にしてきたからだと思います。
「この人と一緒にしたらおもしろそうだな」と思える人脈をいかにたくさん築いておくかで、キャリアの様相は大きく変わるもの。会社にいたから自然に人脈ができた、というわけではないですが、多くのチャンスやきっかけをもらえたという意味で、ファーストキャリアが広告代理店だったことは良かったと思っています。マーケティング及びブランディングの仕事に不可欠な人脈をたくさん作ることができ、その後のキャリアにつながっていきました。
自分が持つ個性を仕事につなげていくためには人脈が不可欠ですが、人脈だけでは先細りになるので、忍耐力をもって仕事に取り組み、自分の個性を磨き続けることも重要だと思います。キャリアの方程式を作るとしたら「個性×人脈+忍耐力」。いずれかが欠けても、大きくは飛躍できない気がします。

仕事のための人脈というだけでなく、良いキャリアを歩んでいくためには「縁あって自分とかかわってくれる人たちを大切にする」という意識も非常に大切だと思います。「生来、人が好き」というタイプではなくとも、自分を助けてくれた人たちには恩返しをしようくらいの気持ちは持っておきたいところです。
人は多面的な生き物。会社で嫌われている人が自分の家族には優しい、なんてこともあるわけで、この人は良い人、この人は悪い人、と一概に決めつけることはできませんが、自分に優しくしてくれる人は、自分にとっては確実に良い人であり、そういった人たちだけは大事にしよう、と思ってキャリアを歩んできました。
そういった意味で、守るものがある人間のほうが強いと個人的には思います。万人がそうとは言いませんが、私自身は周囲の皆様のおかげで頑張れている自覚があり、周囲の皆様がいるからこそ「与えられる人間でありたい」という心境にもなれている気がしますね。
もちろん完璧な人間にはほど遠く、50代になった今も「もうちょっと言い方を工夫すれば良かった」なんて後悔は日常的にありますが、こういった大小の反省と満足を繰り返しながら、キャリアは形作られてくるものなのかなとも思います。
社会で活躍するのは「客観性」と「柔軟性」がある人
これから社会に出る人たちに伝えたいのは、客観性と柔軟性を持つことの大切さです。
まずは客観性について。仕事においては「自分はこう思う」ということよりも「他人から見てどうなのか」のほうがはるかに重要です。私も仕事における意思決定においては、必ず主観と客観を区別して事象を検証することを意識します。「自分はこうするのが良いと思う」ではなく、「他人がどう思うか」を想像しながら判断や意思決定ができることは、ビジネスの基本だと思います。
一緒に働きたいと思うのも、客観的な視点を持てる人です。客観的視点を持てる人は気配りや配慮ができますし、気配りや配慮というのは見た目にも表れます。たとえば、当社のような飲食サービスの店舗で働く場合に「自分はこういうスタイルが好きなので」と清潔感のないファッションをするような人がいたら、ひと目で「ああ、客観性がなく、気配りができない人なのだな」と思ってしまいます。こういう人は一時が万事、こういった調子で自分を貫きがちであるということも、多くのスタッフと働くなかで感じてきたことです。
プライベートではどんな服を着ても良いですが、人に会う仕事において「この服装がラクだから」といった服装選びをすることは、客観性を欠いている証拠。「なんだか、だらしない雰囲気の人だな」と思われてビジネスで得をすることはありません。
そして生活態度は、洋服だけでなく体型にも現れます。欧米ではエリートほど体を鍛えていて、健康的な体型でないと出世にも影響すると言われるほどです。私も普段は好きなファッションをしていますが、「ここぞ」という場面では、相手へのリスペクトを表現するためにきちんとしたスーツを着ます。ビジネスの基本とも言えますが、客観性を持てるかどうかで、他人から見た印象は大きく変わることは知っておいて損はないと思います。

続いて、柔軟性について。時代の変化に柔軟になれないことは、ビジネスにおいて致命傷になります。たとえば、私が若い頃、アニメは決してかっこいいと言われる趣味ではありませんでしたが、今やトレンドの中心になり世界に通用する日本のコンテンツになっています。昔のイメージのまま「アニメはダサいもの」と思い込んでいたら、今の時代の広告などは担えないと思います。
もちろん、何もかも新しい時代に合わせるべき、ということではありません。ビジネスは継続が何より難しく、歴史あるブランドや会社には長く続いているだけの理由が必ずあるものです。既存のものも大切にしつつ、新しいものを柔軟に足し合わせてみる、くらいの感覚を持っておけるとベストです。
この話は、就職活動にも応用が効くと思いますね。歴史がある企業には注目すべきだと思いますし、歴史があり、かつ新しいことにもチャレンジしている企業は、就活においても注目に値するのではないでしょうか。
ちなみに私が現在かかわっているタコベルも、アメリカを中心に7,000店舗以上を展開している巨大フードチェーンです。商品力や多店舗展開のノウハウがすでにあり、10のうち6くらいまではすでに完成しているので、我々としてはあとはどう売るか、日本向けのブランディングやアレンジを考えれば良いだけだと思っています。
壁にぶつかったときは「点」でなく「線」でキャリアを考える
キャリアのなかで一番しんどかったのは、自分が育て上げたレストランブランドの売却を命じられたときです。大事に育ててきたお店や会社を、会社の都合とはいえ手放さなければならなくなり、自分が頑張ってきたことがゼロになるような感覚がありました。ただ実際に売却してみると、「売却益を資本に何かやろう」という新たなチャレンジの意思が生まれてきたのです。そしてこの気持ちの転換が、次の仕事につながっていきました。
以降は、何かマイナスな出来事があっても「次のチャンスをもらった」という見方ができるようになりました。物事の意味づけは自分次第。キャリアを点で見ずに線で考えれば、「失敗したからこそ新しいことができた」といった良いきっかけに変えていけることがわかったのです。
また、苦しい局面には「人生はなんとかなる、なんとかなってきたからこそ今の自分がある」と言い聞かせることも多かったです。「A drowning man will catch at the straw.(溺れる者は藁をもつかむ)」ということわざではないですが、必死でもがいているうちに、実際なんとかなっているもの。あまり深刻にならず気分転換をすることも心掛けています。
ちなみに私が脳を切り替えるために使う場所はサウナです。高温多湿の環境で体にグッと負荷をかけると、脳が生命維持機能に力を使うようになり、一時的にほかのことを考えられなくなるからです。その状態から現実に戻ると、脳がリフレッシュしたような感覚になり、視点や気持ちを切り替えることができます。これから社会に出る皆さんも、自分なりにスイッチを切り替えられる場所を見つけておくと、長いキャリアのなかで役立つと思います。

最初の就職活動で仮に内定がもらえないという結果になったとしても、落ち込む必要はありません。「それなら、しばらく海外に行って英語を鍛えてこようかな!」なんて柔軟に考えれば良いのです。ワーキングホリデーでも青年海外協力隊でもなんでも良いので、英語力を身に付けて帰ってきて就活に再チャレンジすれば、最初の就活より良い結果を得られた、なんてことも、第二新卒や中途採用も当たり前になった今の時代では大いにあり得ると思います。
これも「キャリアを点で見ずに線で考える」ということの一例だと思います。周りの人と違う選択をすると、一時的に人からいろいろ言われるかもしれませんが、他人の言うことを気にして生きる必要はありません。
コンビニでアルバイト店員をしながら芥川賞作家になった人もいるくらい、人生は何が起こるかわからないもの。「自分の人生にだって何が待っているかわからない」くらいには未来を信じる気持ちを持って、社会に飛び出してほしいなと思います。

取材・執筆:外山ゆひら
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